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【05-07】

                       * * *

 

 

「今はとりあえず私の指揮に従ってくれ」

 

 了承の返事と指示の要求が、一斉に飛び込んでくる。それに個々に答えても混乱するだけだ。

 だから、最もシンプルな答えを返した。

 

「とりあえず反撃するよ。あんなオートマトンさっさと潰してティーブレイクにしよう」

 

 あまりに緊張感のない一言に、全員が口をつぐんだ。

 が、それも一瞬。

 

 ティーとはコーヒーを指すのか、やはり日本茶なのか、それともシンプルに紅茶なのか。

 そんなどうでも良い疑問を次々と投げてくる。

 

 襲撃者によってもたらされた恐怖と混乱。それがあっという間に収まった。

 ミユクラスが持つ卓越した精神的タフさの成せる業だ。

 

「我は野菜ジュースがいいな。繊維とビタミンは健康維持の必須項目なのだ」

 

 飲食物と健康の因果関係がないはずの機械人形がそう言う。

 

「わたくしはやっぱりティですわ」

「ボクは日本茶かな」

「わたくしも実はそう思っていたのです! やっぱり日本茶が一番ですわ」

 

 他愛のない会話に参加する三人を横目に、ソネザキは携帯端末で現状を確認した。

 

 胸元に付けたバッチは生存状況を知らせる小型発信機になっており、端末を見れば自分のクラスの状況を即座に知る事ができる。

 

 地図上で赤く明滅しているのが生存、青がリタイア。ざっと見た限り、比率は赤三青七くらい。

 十五チーム六十人のクラスだから、生存者は二十名前後だろう。

 絶望的な状況に思える。

 

 

「皆、安心して。まだ六割近い戦力が残ってる。この戦力があれば、十分に逆転できるよ」 

 

 明らかな嘘。

 しかし逃げ回るのに夢中のクラスメイト達には、確認する術はないはずだ。

 

「よくもまあ、そんなことが言えますわね」

 

 端末を横から覗き込んだアンズはただ呆れるしかない。

 

「よし、イスズは左に。フユツキはチトセを回収して、前方のコンクリ片の陰に。マヤはその場で待機」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 今まで支離滅裂だった動きが、統一された意思の下、的確に動き出す。

 

「キヌガサは二メートル右の残骸の近くに伏せて。アオイとアカネは合流して左、イスズの後ろについて」

 

 途中で撃たれて倒れる者もいたが、次第に二体の富獄を囲むように展開していく。

 富獄を中心にして、右側にソネザキ達を残し、正面に十名、約半数の火力を集中。

 そこから距離を開けて左を広くカバーする。

 

「反撃開始。個々の判断でどちらかを狙って」

 

 小銃や拳銃が次々に乾いた音を上げ、無数の弾丸がオートマトンの身体をペイント液で染め上げる。

 しかし、唯一の急所である頭部は、鉄壁の盾に護られていて届かない。

 

「ダメだ。火力も人数もまるで足りん」

 

 ドルフィーナ言葉は事実だ。

 正面から打ち砕くには十丁程度の小銃では圧倒的に火力が足りず、包囲していると言ってもその弾幕は薄く有効打を与えられない。

 

「大丈夫だよ。まだ切り札がある」

「切り札?」

「まだ、こっちにはハートのエースが二枚も残ってる」

 

 聞き返すドルフィーナに、ソネザキは勝気な表情で応えた。

 

「アンズ、コトミ」

 

 シンプルに二人に指示を伝える。

 

「なかなかファイト一発な作戦だね。燃える展開だよ」

「無謀極まりないプランですわ。作戦なんてとても呼べません」

「いけそう?」

「大丈夫だよ。任せて」

「愚問ですわ。わたくしに不可能はありませんもの」

「じゃあ、アンズから頼む」

 

 ヒップホルスターからハンドガンを抜いた。

 右手に一六式オートマチック。左にはリボルバー。

 

「タイミングはこっちで指示するから」

 

 盾から顔を少し出して、様子を伺う。

 狙い通り、左と正面の陽動のお陰で、こっちは無警戒だ。

 

「よし! 行って!」

 

 ソネザキの掛け声と共に、アンズが飛び出す。

 

 富獄の対物センサーが感知、すぐさま反応した。

 微妙に身体の向きを変えて、左側の小銃を向ける。

 

 その瞬間を待っていた。

 アンズを視認する為に、鉄壁の盾から頭部が覗くのを!

 

 走る速度は緩めず、狙いを付けた。

 盾の隙間は野球のボールくらいの大きさ。距離はハンドガンで狙えるギリギリ。十五メートル。

 

 お互いが動いている中、この小さな的を射抜く事ができるのか?

 

 アンズに言わせれば厳しい。

 彼女にとって、この距離でこの大きさを外すのは、かなり難しいのだ。

 

 ハンドガンが火を噴いた。

 瞬く間に全弾を撃ち尽くす。右から八発、左から六発。

 

 第一の関門である盾に阻まれたのは四発。差し引き十発が頭に迫る。

 咄嗟に首を振って五発を回避するが、残り五発が次々と命中、ペイント液を撒き散らす。

 

 だが、その程度では富獄は止まらない。

 小銃を動かして手強いターゲットに狙いを絞り込んでくる。

 

「遅過ぎですわ!」

 

 その刹那の間に、アンズはヒップホルスターに銃を戻し、胸のホルスターから次の一組を抜いていた。

 まさに神速だった。

 

 乾いた火薬の音と共に、再び弾丸が撃ち出される。

 防御を掻い潜り、見事顔面を捉えたのは、先程の倍。

 

 センサーを明滅させて、富獄が四本の手をだらりと下げる。

 動きが止まった。

 

 アンズが腰のホルスターから最後の一組を取る。

 

 残った富獄はアンズの方に向きを変えていた。

 側面と背後からの弾丸を右の盾で防御しつつである。

 

 アンズが引き金を引く。

 予備の武器はない。とりあえず半分だけを撃った。

 

 予想通り、左の盾がいとも簡単に弾丸を弾く。

 流石は難攻不落のオートマトン。

 銃に関してはトップクラスの腕前を持つアンズであっても、正面から一対一でどうにかできる相手ではない。

 

「コトミ!」

 

 ソネザキの掛け声を受けて、コトミが駆け出した。

 一直線の最短距離で富獄との間合いを詰める。

 

 富獄のセンサーがその姿を捉えた。

 瞬時の迷いが生まれる。このままアンズを撃つか、近づいてくるコトミを排除すべきか。

 

「これでもくらえぇぇいぃぃ!」

「なんだよ。その掛け声は!」


 盾の陰から身を起こして、ドルフィーナとソネザキがグレネードを投げる。

 

 ゆっくりと放物線を描いて迫るグレネード。

 中距離で銃を手にしているアンズ。

 走り込んでくるコトミ。

 

 三択。しかも制限時間はほとんどない。

 

 銃が弾丸を吐き出す。

 アンズとソネザキ達に向かってではあるが、精密な射撃ではない。

 バラ撒いたという感じに近い。

 

 小さな身体を精一杯低くして、アンズは弾丸の洗礼を潜り抜けた。

 身体を掠める弾丸に悲鳴を漏らしそうになる。

 

 ソネザキとドルフィーナも急いで盾の陰に身体を押し込んで、事なきを得た。

 

 直後、グレネードの破裂音が二つ。

 しかし富獄は盾を掲げて、飛び散るペイント液から頭部を護る。

 

「そこ!」

 

 その動きを見逃さず、アンズが残った弾丸を撃ち込む。

 

 不意に富獄の身体がぐっと沈んだ。

 あっと思った時には、その巨体が大きく後ろにステップしていた。

 

 予想外の回避行動に、弾丸が虚しく宙を過ぎていく。

 

 頭部のセンサーがピカピカと明滅した。

 

 惜しかったな。私の勝ちだ。

 

 もし富獄に言葉を話す機能が付いていたなら、間違いなくそう呟いていただろう。



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