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【05-02】

「フォークをニ本使うなんて卑怯過ぎます! 正々堂々と勝負すべきですわ!」

「食事中に二本のフォークを使ってはならないというルールがあるのか?」

「そ、それは……」

 

 絶句するアンズ。

 

 ルールはなくても、マナー的に……。

 

「まったく根拠もなく卑怯者呼ばわりするのは止めてもらいたいな」

「でもでも」

「これは知略なのだ。お前の未熟な脳が、この偉大なオートマトンの電子頭脳に膝を折ったのだ。それを認めるのだ。そして理解せよ。人間が頂点の時代は過ぎたと!」

 

 たかが、ソーセージ一本の取り合いを、まるでスペースオペラの山場の如く言ってみせる。

 

「こういうイベントは良くあるの?」

 

 状況にイマイチ乗り切れないキリシマが、ソネザキにそっと耳打ちで確認する。

 

「ほぼ毎日ね」

 

 流石のキリシマも言葉を失った。

 

 食事毎に機械と人間の争いが起こっている。

 一見はオカズを巡っての低レベルな争いだが、当人達に言わせると、種の尊厳を掛けた負けられない戦いなのだそうだ。

 ちなみに勝率は、おおよそ五分。

 

 アンズが顔を伏せた。ぎゅっと唇を噛む。

 今にも泣きそうだ。

 

 負けず嫌いなアンズにしても、これほどの反応は珍しい。

 食べ物を取られた事よりも、言い返せない悔しさが勝ったのだろう。

 

 言い過ぎだよ、このバカ。

 という思いを込めてソネザキがドルフィーナを睨む。

 

 まさかここまで反応するとは思わないだろうが。

 という思い込めてドルフィーナがソネザキを睨み返した。

 

 二人が低レベルな心と心のキャッチボールをしている間に、コトミがアンズの傍らに移動する。

 

「アンズちゃん、残念だったね」

 

 そっと肩に腕を回して優しく抱き寄せた。

 普段のアンズなら大仰に騒ぐシチュエーションだが、今は小さく頷くだけだ。

 

「悔しさは強さへのバネになるんだよ。今は辛いかも知れないけど、明日はきっと笑顔で頑張れるよ」

「解って、いますわ」

 

 湿った声で途切れ途切れに答える。

 

 どことなく感動的なシーン。

 だが、冷静に考えると発端はオカズの取り合いである。

 

「よし、じゃあ、元気が出るように、ボクのオカズを分けてあげるね」

 

 確保しておいたカラアゲをフォークで刺して、アンズに近づける。

 

「はい、あぁぁぁん」

「よよよろしいんですの?」

 

 予想もしていなかった状況に、アンズの声が裏返る。

 

「うん、カラアゲはアンズちゃんの大好物だよね」

「でも、これは、その、かかか間接……」

「関節技?」

 

 きょとん。

 一瞬の間。

 

「ソネザキ、この状況であのボケは許されるの?」

「天然だからセーフだと思うよ」

「いやいや、天然でもアウトだよ、絶対に」

 

 成り行きを見守っていたソネザキとキリシマが、ひそひそと意見を交換する。

 

「はい、あぁぁぁん」

「あぁぁぁぁん」

「美味しい?」

「はい。とっても。その、なんというか、内臓がただれるようですわ」

 

 その比喩はとても好意的な物に思えないが、耳まで真っ赤にしてうつむいているアンズは幸せの絶頂なのだろう。

 そんな幼馴染みを見ているコトミも嬉しそうだ。

 

 なんのかんのと言って、この二人は親友と呼べる間柄。

 

「なんか羨ましいくらいだね」

 

 キリシマの呟きに、ソネザキも素直に同意を示した。

 

 この二人の関係は特別なのだ。そう解っていても、もやっとした感情が生まれる。何に対しての嫉妬なのか。

 いつも答えに辿り着けない疑問を反芻する。

 

「ソネザキ、ソネザキ」

「なんだよ、人が考えごとしてるのにさ」

 

 いつの間にかドルフィーナが、ソネザキの近くに移動してきていた。

 

「あの二人をあのまま放っておいていいのか? このままでは我らは敗北だぞ」

「何がどうで勝ち負けが決まるのか。そこから教えて欲しいんだけどさ」

「あの二人に、我らの友情を見せ付けてやるのだ」

 

 ぐっと拳を握って意味不明の宣言。

 

 対処に困って、頼れるおでこちゃんに助けを求めて視線を投げた。

 もちろん、キリシマはそっと目を逸らす大人な対応だ。

 

 戦場において最終的に頼るべきは、己が力のみ。

 色々と言いたい事はあったが、とりあえず溜息に置き換えて、ドルフィーナとの会話を再開した。

 

「で、具体的にどうしろと?」

「ふむ、とりあえずはお前が確保しているカラアゲを我に食べさせるべきだと思うのだ」

 

 ソネザキの吐息が深く重くなる。

 

「はい、あぁぁぁんとかして欲しいの?」

 

 四の五の言うよりも早く、目を閉じて限界まで口を開けるオートマトン。

 

 その間抜け面をソネザキはマジマジと眺めてしまう。

 機械仕掛けの人形。整った顔立ちは、額の刻印が無ければ誰が見ても美少女と納得できるだろう。

 

 それなのに何故、これほどまでに魅力を感じないのか。この疑問も大いなる謎の一つ。

 

「早くしろ。顎がだるくなってくる」

「いや、やっぱり内面だな」

 

 妙に納得できた。

 

「ほら、あぁぁぁぁん」

「あぁぁぁん」

 

 仕方なく、大きく開いた口に放り込んだ。

 

「美味しいか?」

「ふむ、なかなか……」

 

 むごむごと咀嚼しながら、眉を曇らせる。

 

「むむ、妙に歯ごたえがあるな」

「消しゴムだからね」

 

 ソネザキの言葉に、慌てて口の中の物を吐き出した。

 美少女には有り得ない行為だが、本来美少女という存在は消しゴムを噛み締める機会に恵まれていないだけかも知れない。

 

「うわっ、汚いなぁ」

「貴様! 何を考えているんだ! 喉に詰まったらどうしてくれる!」

「それはそれで笑えるかなって」

「貴様! 絶対に恨み日記に書いてやるからな!」

「あはは。アンタ達、面白いよ。最高だよ」

「何がおかしい! お前も絶対に書いてやるからな!」

 

 文字通りお腹を抱えて笑っているキリシマを指差して怒鳴る。

 

「そう怒るなって、カラアゲあげるからさ」

「このくらいで水に流すと思うなよ。我は蛇の如く執念深いのだ」

 

 差し出されたカラアゲを頬張ると、紅潮していた顔から怒りが引いていく。

 本人の談はともかく、実に単純明快で解り易い機械人形だ。

 

「あ、それとさ」

 

 溢れ出た涙を拭いながら、キリシマが話題を変えた。

 

「状況開始は十二時三十分からだけど、旗に向かうのは四十分からだから」

「それも美少女協定で決まったのか?」

「まあね。アンタ達は旗に向かわないと思うけど」

「わたくし達は、十三時過ぎまでゆったり食事をする予定ですの」

 

 アンズが割り込んできた。

 ベソをかいていたとは思えないくらいご機嫌。

 本人の主張はともかく、内臓もただれてはいないようだ。

 

「じゃあ、私は戻るよ。旗に向かう連中のサポートはしてあげないといけないから」

 

 携帯端末があれば、どこでも状況を知る事はできる。

 しかし、移動や戦闘中の各員にそれをさせるのは非効率極まりない。

 そこで本陣に総合指揮所を置いて情報を一括管理、適切な指示を送るのが一般的だ。

 

「さっすが委員長だね」

「まあ、他のクラスに負けると悔しいしね。まあ、アンタ達も手が空いたら手伝ってよ。あれ?」

 

 時間を確認しようと端末を取り出して気が付いた。

 

「メールがきてる。しかも、ミユちゃんから」

「珍しいね。演習スケジュール変更でもあったかな? ソネザキ、チーム毎にきてる?」

「いや、ないね。クラス委員にだけ送ったのかな」

「キリシマさん内容はなんです? あの教官のことですから、下らないことだと思いますけれども」

「ちょっと待って。暗号ロックが掛かっててさ」

「ミユちゃんが暗号」

 

 コトミが訝しげな表情になる。

 いや、ソネザキもアンズも漠然とした不安を感じつつあった。

 

 顔を見合わせて、そこでドルフィーナが黙り込んでいるのに気付いた。

 無駄口を叩くのが唯一の機能と称されるくらい、おしゃべりな彼女にしては珍しい。

 

「ドルフィーナ、どうかした?」

 

 手でネザキの質問を制する。いつになく真剣な目。

 

「よし、開錠できたよ。えっと、中身は……」

「まずい! 伏せろ!」

 

 ドルフィーナの叫びがキリシマの声を飲み込んだ。

 

 

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