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【04-03】

 咄嗟に反応したコトミが跳んだ。

 ソネザキにぶつかると、抱きかかえながら倒れる。

 崩れていく体勢の中で器用に身体を捻り、オートマトンの高速体当たりを紙一重で避けた。

 更に転倒寸前に右手を床に。ダメージを最小限に抑える。

 

 一方、スピードを殺しきれなかったドルフィーナは壁にぶつかった。

 轟音が響き、室内が大きく揺れる。

 防弾素材の丈夫な壁に、華奢な少女がめり込むのは、ある種不気味な光景だ。

 

「ふう、ちょっとドキドキしたね。違う意味でファイト一発だったよ」

 

 コトミが危機的状況を潜り抜けたと感じさせない気楽な一言を添える。

 

「ソネザキ、怪我はない?」

 

 抱き合った状態のままコトミが微笑んだ。

 

「ありがとう。その、なんていうか、助かったよ」

 

 その表情にソネザキから緊張が解ける。とそこで、頭の下にコトミの腕が回されているのに気付いた。

 床にぶつけないように腕をひいてくれたのだ。

 

 ほんの一瞬でここまでの事ができる。

 その身体能力の高さは流石としか言いようがない。

 

 ソネザキが慌てて頭をどけた。

 案の定、コトミの二の腕に青い痣が出来ている。

 

「ごめん、コトミ」

「全然気にしないでいいよ。こんなのへっちゃらだし。それよりも、ソネザキに怪我がなくて良かったよ」

 

 いつも通り裏のない顔。この程度の怪我は微塵も気にしていないのが解る。

 

「ごめん、私が浅はかだったから」

「だから、謝らないでって。ボクだって、いつも皆には迷惑掛けてるんだし」

 

 ぽんっと身体を起こして、ソネザキに手を差し出した。

 

「もちろんボクはこれからも容赦なく迷惑を掛けまくるつもりだし。だからこれは先行投資みたいなもんだよ」

「なんだか、良く解んない理屈だけど」

「経済ってのは難しいからね」

 

 コトミの手を借りて、ソネザキもようやく立ち上がる。

 

「でも、流石オートマトン。爆発力は凄いね。科学の勝利だよ。うん」

 

 壁にめり込んでいるオートマトンの背中に感嘆の声を上げた。

 

 両手を上に挙げ、まさにギャグ漫画の一コマをイメージさせる状態。

 これは勝利ではなく敗北じゃないのかとソネザキは思う。

 

「ドルフィーナも大丈夫?」

「うぅぅん? あれ? 目の前がまっくらですわ?」

 

 凹んだ壁から身体を引き抜きながら、左右に大きく頭を振った。

 

「うぅぅん? あれ? ここはドコざます?」

「ざます?」

 

 聞きなれない語尾をソネザキが怪訝そうに繰り返す。

 

「むわわわ、数秒間の記憶が飛んでいますですよ。バックアップから復旧させるでござるよにんにん」

 

 エメラルドの瞳を明滅させながら、左右の手を頭に乗せて、かくかくと屈伸を始める。

 

「にんにんって。アンタ、まさか」

 

 奇妙な踊りを始めた機械人形に、ソネザキが青ざめる。

 どう見ても故障だ。

 

「大丈夫だよ。強い衝撃を受けると一時的にエラーが出るだけ」

「そりゃ初耳だ」

「……だと思うんだけどな」

「確定情報じゃないの?」

「多分、間違いないよ。去年、寮で使ってた全自動掃除機があんな感じだったから」

 

 根拠のない仮定にソネザキは閉口してしまう。

 しかし、このオートマトンと全自動掃除機を比較すれば、間違いなく後者の方が高性能だ。

 前者はゴミを散らかすしかできないから。

 そう考えると、コトミの理屈も納得でき……。

 

「るわけがないよ!」

「あはは。そっか、そうだよね。よし、それじゃあ」

 

 両手を大きく広げて、くねくねと身体を揺らしているドルフィーナに近づく。

 

 二人の距離が一メートルを切ったところで、ドルフィーナが動きを変えた。

 

「にゃー! 敵対生物確認! 迎撃するなり!」

 

 腕をぐるぐると回ながら、胸を反らす。

 

「威嚇のポーズ?」

 

 ソネザキが疑問符を浮かべた。

 

 野生動物は己の身体を大きく見せる事で相手を威嚇するというが、まさかオートマトンも同じ行動を取るのだろうか。

 

「を、ホンキだね。なら、ボクも手加減しないよ!」

 

 コトミが、にぃっと嬉しそうな顔になる。

 

「じゃあ、どんなルールで……」

 

 コトミの言葉が終わる前にドルフィーナが踏み込んできた。

 右手を大きく振り上げて、一気に叩きつけてくる。


 セオリーもへったくれもない、ただ体重と腕力に物を言わせた攻撃。

 だが、早い。

 まだリミッターが解除されたままなのだ。

 

「コトミ!」

 

 ソネザキは声を上げるのが精一杯だった。

 容赦のないオートマトンがもたらす惨劇を予想して、それでも目を離す事ができなかった。

 

 その拳が当たる寸前、コトミの手がドルフィーナの手首に触れた。

 と同時にコトミの身体が微かに沈む。

 

 ソネザキが視認できたのは、そこまでだった。

 次の瞬間にはドルフィーナが宙を舞っていた。

 

 そのまま緩やかな弧を描き。

 ずぅぅぅんと鈍い振動。

 受身も取れずに顔面から床に叩きつけられる。

 

 呆然としつつも、ドルフィーナの手首をコトミが掴んでいるのに気付いた。

 つまり、コトミに投げられたのだ。

 見た目とは裏腹に百キロの重量を誇るオートマトンが、見た目通りの四十キロそこそこの少女に。

 

 有り得ない現象に固まるソネザキに、コトミが笑顔を向けた。

 

「これが、えっとね。なんたら柔術奥義、なんたら投げだよ」

「なんたら?」

「正確に覚えてないんだから勘弁してよ」

 

 柔術。古流格闘技の一種。

 投げと関節技を主体とした物だと、ソネザキはライブラリで見た記憶がある。

 しかし、そんな物が今も伝わっているとは、にわかに信じがたい。

 

「コトミ、いつ、どこで習ったの?」

「え? なにを?」

「そのなんちゃら柔術ってやつ」

「ああ、さっきのだね。先週、ドルフィーナに借りた漫画に書いてあったんだ」

「漫画って、どういうこと?」

「タイトルはなんだったかな。柔術を使う少女が主人公の恋愛漫画でさ」

「いやいや、そうじゃなくてさ」

「あ、今度さ、ソネザキも借りたらいいよ。面白かったから」

「だから、そうじゃなくて」

「恋愛漫画は嫌い? ボクは結構好きだけどな。じゃあ、どんなのが好き?」

 

 また急速に話がずれていく。

 

「そうじゃなくて!」





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