番外編19-10
ミョウコウからのチョコケーキを食べたはずなのに、甘い物は別腹という乙女の法則は健在。
次の甘味を求めてしまう罪深さだ。
「とりあえず開けてみよう。チトセが手作りしてくれたって」
ソネザキはご機嫌で、包装紙を解いていく。
その嬉しそうな顔にアンズは眉根を寄せてしまう。
ソネザキは何とも感じてないようだが、普通こんな物を贈られたら引くのは間違いない。
「うわ」
ソネザキが感嘆を漏らした。
ハート形のチョコにはカラーチョコで天使が描かれていた。
アニメ調のタッチ。
瞳を閉じ、柔らかな笑み。
両腕を胸の前で交差させ、背中にある四対の羽が裸身を包み込んでいる。
「チトセちゃんって、絵が上手なんだ」
「上手とか言うレベルではないぞ。プロ並みではないか」
コトミとドルフィーナの絶賛を耳に、アンズは衝撃で固まっていた。
イラストではない。その下に添えられた文字に、だ。
愛しています。
薄ら寒いひと言。
背筋を冷たい物が駆け下りる。
確かにアンズ自身も歪んだ感情をコトミに対し抱いている。
だが、それは恥じる想いではないと断言できる。
しかし、これは別だ。
なんというか、生々しい気味悪さがあった。
「うわぁ。超凄いチョコ」
いつの間にか半透明の少女が天井付近に浮いていた。
寮の精霊であるアオバだ。
あの夜以来、コトミ達の前には気軽に姿を見せるようになった。
流石のソネザキも慣れてしまうくらいに。
「チトセ、頑張ってくれたんだな。なんか食べるの勿体ないくらいだよ」
「しかし、食べないのはもっと勿体ないであろ」
「そうだ。写真撮っておこうよ。ボク、カメラ撮ってくるよ」
自室に駆けていくコトミを見送りつつ、アオバが甘えた声を出す。
「ね、私もちょっとだけ貰っていい?」
「もちろん。同居人だしね。五等分しよう」
「やったぁ。今日はついてるな。霊だけについてるなんてね」
「笑えない冗談は言わないでよ」
妙に盛り上がるメンバーを置いて、アンズはまだ固まっていた。
その目は一点。やはりイラストの下に添えられたメッセージを凝視している。
愛しています。
狂気じみた薄笑いを浮かべながら、そう書き示すチトセが想像できた。
「アンズ、どうかした?」




