番外編19-06
「あはは。本人様は恥ずかしいんだってさぁ。それにぃ」
にたりと悪趣味な笑みを作る。
「初めて渡すバレンタインの相手が、女子になるのは嫌だってさぁ」
「その気持ちは解らないでもないな」
ソネザキも初めてのバレンタインチョコは、好きな男性が相手であって欲しいと願っている。
「っていうかぁ、今まであげた事ないのが驚きだよぉ。ねぇ、ソネザキ」
「あ、あげた事くらいあるよ。失礼だな!」
「ふうん。ま、そうしておいてあげるよぉ」
性悪な目をしながら、「で、こっちがアタシから」とペンほどの包みを差し出す。
開けてみると細いアートマイザーだった。
チョコレート色の液体が入っている。
「アタシが開発したチョコスプレー。空気に触れると固まるからぁ、吹きかけるだけでチョココーティングができるよぉ。果物とかに使うと、かなり美味しいんじゃねって思うわけぇ」
「面白い物だけど」
「アンタ、アタシが友達だって思ってるんでしょ。友達にはチョコをあげるもんなのさぁ」
「でも、こっちは用意してないし」
「いらね。ソネザキからのチョコなんて気持ち悪いしぃ。アタシに同性愛の趣味はないんだってぇ。マジいらね」
心底嫌そうに言ってから、「じゃあねぇ」と離れていく。
「随分と大漁ではないか」
「これが夕食代わりになれば助かるんだけどさ」
「貧乏人の感性は悲しくなってくるな」
オートマトンが重苦しい息を吐いた。
「あら。随分とチョコを頂いたのですね」
「ソネザキ、モテモテだね。いいなぁ」
チームメイトふたりが席に戻ってきた。
「コトミさんにはわたくしが愛を込めたチョコをプレゼントしますわ」
「毎年ありがと。ホワイトデーにちゃんと返すからね」
「うふふ。楽しみにしております。それにしても、かなりの量ですわね。夕食代わりになると助かりますのに」
「ホントだよね。チョコの混ぜご飯とか、案外いけるんじゃないかな」
「そういう挑戦はしなくていいよ」
* * *
「どうしたの、チトセ。後ろばっか気にして。って、なに?」
珍しくキリシマが当惑を浮かべた。
昼食後、次の授業で使う機材を取りに職員室まで行って、戻ってきたところだった。
振り返ったチトセの表情が滅多に見ない物だったからだ。
眉間は不快に顰められていた。
紅潮した頬をぷっくりと膨らませ、瞳には苛立ちが映っている。




