番外編19-03
丸味のあるハート型のチョコ。
横幅は最大部分で三十センチ。縦も負けず劣らずの三十六センチ。
実に堂々とした物だ。
この大きさは、客観的に見ても引く。
だが、それだけではない。
イラストレーターの技術を遺憾なく発揮したイラストに加え、「愛しています」なんぞという薄ら寒いメッセージまで書いてしまった。
ここまで来ると引くだのというレベルではない。
どう見ても、怪しい趣味を凝縮した一品だ。
やはり置いて行って、後でひっそり処分しよう。
それがベスト。そう決めた時だった。
どんどんとドアがノックされた。
喉の奥で悲鳴を漏らしながら、反射的にチトセは立ち上がる。
「チトセ、起きてる? そろそろ学校行くよ」
キリシマの声だった。
時計を見る。チョコについてあれこれ考えている間に、少し眠ってしまったようだ。
「チトセ、起きてる? 体調悪いの?」
「あ、ごめんなさい。直ぐ行きます」
慌てて着替えると、鞄を掴んで部屋を出た。
* * *
チトセは大きく溜息をついた。
授業は四限目、数学の時間。終われば昼休みだ。
教団ではフリル盛りだくさんの赤いワンピースを着たミユが、板書した数学式の答えが合わず「あれれれ?」と首を捻っていた。
チトセはミユを良い教官だと思っている。
確かに珍妙な格好でうろついているし、怠惰な性分で雑用を押しつけてくるし、職員室ではお菓子をバリバリ食べているし、ユキナ教官に怒られれば泣くし。
そもそも、同僚の教官に怒られるというのは、どうなのかという指摘はあるだろう。
それでもミユは生徒ひとりひとりを良く把握しているし、多分に注意を払ってくれている。
頭ごなしに怒鳴りはしないが、いけない事はいけないとハッキリ諭してくれる。
「微妙に答えが合わないですど、そういう事もありますね。うん」
とうとう諦めたようだ。
「みなさん、覚えておいてください。生きていくには妥協が必要なんですよ」
良い教官と優秀な教官は違う。
ミユの良く解らない自己フォローを聞きつつ、チトセはそんな事を考える。
それよりも、だ。
ふうっと溜息が出た。
机の中には巨大なハートチョコを抱えた、トートバックが入っている。
どうして持ってきてしまったのか。朝の自分に詰問したい。
一方で持ってきた限りは渡さないと、という意識も起こる。
普段、あれだけ迷惑を掛けている点を鑑みれば、このくらいの大きさが妥当な気もするし。
「愛しています」というメッセージだって、親愛の情を表すのに一般的だろう。




