番外編18-9
ソネザキにしては異次元レベルの話。
そう言えば、コトミは幼少の頃貧しく、家畜の餌である合成ポテトを食べていたとも聞いた。
ソネザキはドルフィーナに目を移した。
虚ろな目で黙々と芋虫を食べている。
「あいつ、センサー切ってやがるし」
あまりに機械的な動き。五感を遮断できるというオートマトンの特性を利用したずるっこだ。
だが、それを非難する訳にもいかない。
そもそも戦場では己の持てる力を活用する物。モラルを問う場所ではない。
一縷の望みを込めて、自分以外で唯一常識人に近いお嬢様を見やる。
アンズはナイフとフォークを巧みに使い平然と口に運んでいた。
絶句するソネザキの視線に気付き、ふと食べる手を止める。
「ソネザキさんは御存知ないかもしれませんが、虫を食べる文化は珍しい物ではないのです。わたくしは色々な場所で、色々な物を食べさせられてきました。無論、最初は抵抗もありましたが、今ではどうという事もありません。人の食べられる物であれば、受け入れられます」
「受け入れるなよ! そんなの!」
「実際、これは癖がなくて美味しい部類に入りますわ。見てくれが苦手であれば、目をつむって食べればいいのです」
なんという事だろう。この中で少数派は自分の方だった。
「好き嫌いは誰にでもあるからね。無理に食べなくてもいいし」
「食べるよ! 食べればいいんだろ!」
子供扱いしたようなミョウコウの言葉が、ソネザキの意地っ張りな部分を刺激した。
テーブルに座りなおすと、ままよとばかりに口に放り込む。
確かに口触りはふっくらと優しく、嫌な香りもない。
クリーミーな味わいだが、くどさのないあっさりとした甘味があった。
不味くはない。むしろ、今までの料理に比べたら遥かに美味しいだろう。
しかし。
「虫はやっぱり虫だよ」
理性で感情が抑えられる訳ではないのだ。
目をつむって何も考えず、とにかく口だけを動かす。
次第に近付く無我の境地。悟りの欠片に手が届くかというタイミングで、皿の上から芋虫達がいなくなった。
グラスの水を一気に煽り、全てを胃の奥に押し込んだ。
「ミョウコウ、あと何皿くらいあるの?」
摩耗した精神力を奮い立たせる為にも、コンロの前で動き回っているミョウコウに尋ねた。
「あとメインとデザートだよ。メインは牛のランプステーキ。デザートはシンプルなプリンだから」
ソネザキが小さくガッツポーズ。
残りふたつと言うのもあるが、ステーキとプリンなら心配無用。
油粘土やドブ川、芋虫みたいになりようがない。




