番外編18-8
「ん。どうしたの、ソネザキ」
「そそそそれ!」
皿を指さし震える声を出す。
八センチほどの細い物が並んでいた。
白っぽいが微かに淡い黄色を帯び、ほんのりと湯気が上がっているのは、どう見ても。
「これがどうしたの?」
「それ虫だろ!」
今にも泣きそうだ。
しかし、ミョウコウは冗談だと受け取ったのか、明るく笑った。
「またまた、ソネザキってば」
「またまたじゃないよ! どう見ても芋虫だろ!」
「違うって、これは食べ物だって」
軽い調子のミョウコウに、ソネザキは戦慄する。
クラスでも面倒見が良い方で、好まれるタイプのミョウコウ。
ややナイーブな点もあるが、何よりマジメな性格をしている少女。
癖のあるミユクラスにしては、珍しいくらい普通の人間。しかも影が薄くない。
そういう認識でいたのだが。
ソネザキの喉が鳴った。
ミョウコウは食べ物に関して壊れている。
どう見えるかとか、どんな味がするかとかは問題ではない。
自分の感性が絶対に正しいと盲信しているのだ。
だから、自分が美味しいと感じた物を厚意として人に御馳走する。
食の権化という妖怪だ。
「ほら早く。冷めちゃうと味が落ちるからね。茹で加減も絶妙だよ」
「茹で加減?」
「超レアで仕上げてあるの。外はふっくらとした歯触りで、中はとろとろ。もうね、最高の仕上がりだから」
そう言って、ちろっと舌を出した。
「試作段階ではね。生きてる状態から自分達でワタを取って、しゃぶしゃぶにしてもらったんだけど。加減が難しいみたいでね。完全に火を通しちゃうんだよ。だから本番では私が絶妙の加減で」
すっと素早く手を動かす。
「お湯から上げたんだよ」
原型がなくなるくらい火を通して下さい。むしろ存在がなくなるくらいで丁度いいです。
ソネザキの正直な意見だ。
「ほら、早く」
陰りのない笑顔で椅子を勧めてくる。
「でも」
泣きそうになりながら、チームメイト達を見て。
「なんで、普通に食べられるんだよ!」
平然と食べている三人につい怒鳴ってしまった。
「これは美味しいよ」
コトミが唖然とする事を言う。
「ボクさ、子供の頃はかなり生活貧しくてさ。公園で虫とか採って食べてたりしたんだ。でも、こんなに美味しくなかったよ。もうね、苦かったり臭かったりで」




