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番外編17-5

「そうなったら殴ってでも引きずり出す。それ以上は、みんなに掛ける心配のが大きくなるからさ」

「そうならない事を祈ってるよ」

 

  

                       * * *

 

  

 結果的に、キリシマの心配する事態には陥らなかった。

 

 キリシマが部屋に帰ると、チトセのベッドは空っぽだったからだ。

 

 その頃、チトセはソネザキ達の部屋を訪ねていた。

 暗い顔をしてドアの前に佇んでいたチトセを、とりあえずは招き入れたが、俯いて黙り込んだまま。

 

 延々と続く沈黙。

 最初に不満を上げたのは、小さなお嬢様だった。

 

「もう、いい加減にしてくださいな! わたくし達まで滅入ってきますわ!」

「ごめんなさい」

 

 消え入りそうな声のチトセは両目が真っ赤、目蓋も腫れぼったい。

 ひと晩中泣いていたのだろう。

 

「アンズちゃん、そんな言い方しなくても」

 

 珍しくコトミが諌めるが。

 

「コトミさんは黙っていてください。迷惑に押しかけて来た挙句、黙り込むだけ。わたくしの堪忍袋も限界です! 同情を買って欲しいなら、どうぞ別の場所で売って下さいな!」

「アンズ、言い過ぎだよ」

 

 ソネザキが嗜める。

 

「しかしソネザキ、アンズの言も一理あるではないか。話してくれねば、我らとてどうにもできんのだからな」

「そうだよ。ドルフィーナの言うとおりだよ。チトセちゃん、ボクらで良かったから話してくれない?」

 

 流石のチームワークと言うべきか。

 事前に打ち合わせをしていたわけでもないのに、ころころと話が転がっていく。

 

「あの、実は……」

 

 流れに押されるように、チトセが口を開いた。

 

「昨日、その、色々とあって、キリシマさんを怒らせてしまって」

「ケンカしたってこと?」

「いえ、私が一方的に怒らせてしまっただけです」

「原因はなんですの。オデコをけなしたとか?」

 

 キリシマのアイデンティティが全てオデコに帰結するかのごとき発言。

 なかなかに酷い。

 

「昨日の演習で、落ち込んでいるんじゃないかって。だから、励まそうとして」

「そんなのを引きずるタイプではなかろう。キリシマは良しも悪しも切り替えの早い性格であろ」

 

 一番親しいチトセが知らないはずがない。

 そう考えると、つい言葉に呆れが滲む。

 

「で、キリシマから逃げて来ちゃったの?」

 

 ソネザキの問いに、チトセがこくりと頷く。

 

 そこで会話は終了。空気がどんよりと淀む。

 

 ふうっとアンズが息をついた。

 ちらりとチームメイトに目配せしてから話始める。

 

「チトセさん、状況は理解できました。ですが、わたくし達ではお力になれませんわ」

「そうだな。個人の問題に口を挟むのは無粋というものであろ」

 

 アンズとドルフィーナに突き放され、チトセはすがるようにソネザキを見つめる。

 しかし、そんな彼女の想いに反して。

 

「その通りだね。私達部外者が、嘴を突っ込むのは良くない」

 

 

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