番外編17-3
* * *
「決断力に欠けるんだよね」
寮に向かう帰り道。
キリシマがなんとなく口にした。
「今日のは仕方ないですよ。あの状況から逆転なんて無理ですし」
隣を歩くチトセが弱々しい笑みを作る。
「もっと早く決断できていたら、もうちょっとマシな結果だったのかもってさ」
強襲か撤退か。無駄に五分も浪費してしまった。
そもそも別働隊が潰された時点で反転。体勢を立て直すべきだった。
いや、それを言うなら、前線突破にこだわりすぎたのが悪い。
予定より早く会敵した時点で、プランの変更を考慮すべきだった。
あれこれ悔んでしまう。
「やっぱ向いてないんだよ。指揮なんてさ」
「そんなことないです。キリシマさんは立派に務めていると思います」
「ん、まあルックスだけは委員長っぽいからね」
輝くオデコを左手でひと撫で。
チトセの言葉を茶化して、歩速を上げる。
「早く帰ってご飯にしよう。負けてもお腹は空くんだよね」
不満そうな顔をするチトセを背中を軽く叩いた。
* * *
「別に、チトセが気にすることじゃないよ」
支給品だけのシンプルな自室で、ソネザキはそう告げる。
夕食と入浴を済ませ部屋に戻ったところで、携帯端末にチトセからコールが入ったのだ。
「でも、友人として力になりたいんです」
普段より強い語気。チトセの感情が滲んで見える。
「チトセの気持ちも解るけどさ。そういうのって、変に触られる方が辛いんだよ」
「でもでも」
「私がそうだったしね」
チトセが言葉を飲んだ。
「チトセの友達想いなところは好きだけど。こんな時はそっとしておいてあげるのも、優しさなんじゃないかな」
「そう、ですね。あまり気持ちを押しつけるのはダメですよね」
簡単な挨拶で通話を終わらせてから、ソネザキは端末を握ったまま息をついた。
しばらく手で弄んでから、意を決してコールボタンを押した。
数回の呼び出しの後。
「ん、どうしたの。ソネザキ」
いつもと変わらないキリシマの声。
「用ってほどでもないんだけど。今日ので、へこんでんじゃないかってさ」
「ははん、チトセか。悪いね。また迷惑掛けたみたいでさ」
全て悟ったようだ。




