番外編16-3
「なら、話してもいいかなぁ。前にねぇ、ウチのチームでもさぁ、ストックしてたチョコがなくなったんだよぉ。でね、ヤハギが見たんだってぇ」
「み、見たって何を?」
「深夜、リビングで半透明の女の子が、チョコレート齧ってたってさぁ」
「ば、バカバカしい。寝ぼけてたんだよ。いや、ヤハギが食べちゃったとかじゃないの」
「ヤハギがさぁ、こんな酷い嘘をつくと思うぅ?」
「それは……」
ヤハギはソバカスがチャームポイントの快活な少女。
陽気で明るく、お喋り好き。
コトミほどではないが、誰とでも相性の良いタイプだ。
体力は平均より少し劣るが座学は優秀。学年でトップ二割に入る。
「出来心ってのもあるけど」
言ってはみるが。
「ヤハギに限ってはないだろうね」
「ホントにマジでビビってさぁ。しばらく一人で眠れなくなってさぁ。毎晩、アタシの部屋に押しかけてきて大変だったんだよぉ。メイク落とせなくてさぁ。肌がボロンボロンになってさぁ」
「どうしても素顔は見せないんだ」
「あはは。まあねぇ。コンプレックスってのは、そういうもんだしぃ」
「まあ、それはともかく、リビングの幽霊なんて」
「その話なら、ウチも聞いたことあるよ」
割り込んできたのは双子のひとり、さっきと同じジャージ姿だが。
アオイが売店に行っているとすると。
「アカネ、どうかした?」
「ん。アオイを探しにね。ちょっと謝らないといけないことがあって」
どうにも歯切れが悪い。
「なにぃ? プリンが出てきたとかぁ?」
茶化すイスズに、アカネは力なく頷いた。
「そうなんだよ。冷蔵庫に入ってた。勘違いだったみたい」
「いくら間抜けな双子でもさぁ、そんな勘違いするぅ?」
「でも、冷蔵庫に入ってたんだよ。昨日は確かになかった気がするんだけどさ」
「ふうん。不思議なこともあるもんだねぇ」
「それよりアカネ。アオイなら売店に行ったよ。急げば追いつけるんじゃないかな」
「あ、そうだった。じゃあ、またな」
駆け出したアカネの姿が視界から消えてから。
「ソネザキ、さっきの続きなんだけどさぁ。ウチらのお菓子もさぁ。次の日に見つかったんだよねぇ。これって変じゃね?」
「それは……」
ソネザキにも思い当たる節がある。
少し前、旧友のハヤテから届いたアイスケーキが消失したのだ。
ハヤテのイタズラで決着したはずが、翌日冷凍庫に入っていた。
気味悪がりつつも、ドルフィーナが毒見した後、みんなで食べた。
「全部が全部、気のせいで済むのかねぇ」
イスズの呟きに、ソネザキはぶるっと肩を震わせた。




