番外編16-2
「状況によったらさぁ、アタシは平気で他人を見捨てる人間なんだなぁ。まあ、悪い人間って奴? だからぁ、ソネザキもアタシを信用しちゃダメだよぉ」
「悪人だったら、自分をそんな風に言わないだろ」
「アンタってめでたいねぇ。アタシはサイテーの人間だって言ってるじゃん。ほら、顔見て解らね?」
塗り壁と称される分厚いファンデーションに、グロスでテカテカに輝く唇。目には特盛りの睫毛を付けている。
「人様に顔を隠している人間ってのはさぁ、後ろ暗い奴なんだってばぁ」
自嘲気味に告げると。
「まあ、とりあえず双子に連絡してみっかなぁ」
携帯端末を出した。ふたりは話しながら寮まで戻っていたのだ。
* * *
「プリン?」
「そそ。プリンだよぉ」
「甘くてぷるぷるしてる奴だよな」
「シンプルに薄味なのもあるけどねぇ」
「で、アカネのプリンをウチが食べたって?」
「さぁ? 事実はしんないけどぉ。アカネは、そう思っているみたいだよぉ」
部屋着のジャージ姿で、アオイが首を捻る。
イスズは寮の玄関口にアオイを呼び出した。
なんとなく巻き込まれたようなソネザキも一緒にいる。
「思い当たる事ない?」
ソネザキの確認にアオイは肩を竦め、「まったくないよ」と答えた。
「そもそもさ、ウチが妹のプリンに手出すような、食いしん坊キャラに見えるかって」
「見えるねぇ。っていうかぁ、それ以外に見えねぇくらいだねぇ」
「んなわけあるか! この塗り壁!」
「まあまあ」
話が進まないのでソネザキがなだめる。
「アカネの勘違いって可能性もあるし、他のふたりが間違ったってこともあるしさ」
「それもあるかな。どっちにしろ、ウチが頭下げて丸く収まるならいいや。とりあえずプリン買ってくるわ。悪いなふたりにも迷惑掛けちゃって」
そのまま寮から外に出ていく。
「これにてぇ、一件落着ってわけねぇ」
と言いつつも、イスズの声には晴れやかさは欠片もない。
「何か気になることでもある?」
「ん、ちょっとねぇ」
お喋りなイスズにしては珍しく間を置いた。
「あのさぁ、ソネザキって心霊とか信じないよねぇ」
「あ、当たり前だろ。そんなのあるはずないって。全部気のせいだよ。気のせい」




