番外編15-5
「ん、まあね。子供の頃に作ってもらったんだよ」
経緯を簡単に説明する。
何度か誤魔化すように「今は、そんなに気にしてないけど」を挟んでしまった。
「ホントにありがと。大事にするから」
「大袈裟だって。普段、私達の為に頑張ってもらっているんだし。ささやかなお礼ってことで」
「でも、タカコが裁縫得意とは知らなかったな」
「家事全般は得意なんだよ。特に料理。筑前煮とモヤシ炒めなら、クラスで誰にも負けない自信があるよ」
それなりに柔らかく膨らんだ胸を反らした。
「なんか地味なレパートリーだね」
「う」
「ああ、嘘だよ。冗談だって」
地味だの、目立たないだの、という単語は、タカコにとって辛い言葉なのだ。
「しっかし、タカコはすごいな。家事全般得意で、スタイルも良好。性格も穏やかで優しい」
「ちょっとなにそれ! なにそれ!」
思わぬ称賛に、耳まで真っ赤にしてキリシマの背中をバシバシと叩いた。
「痛たた。いやいや、ホントに将来は素敵なお嫁さんになれるよ」
「それは自信ないなぁ」
「男が放っておかないって。女子力高い上に、学年一の美少女だよ」
ぴくんとタカコの肩が跳ねた。
「え? な、なな、ななななんのこと?」
「美少女コンテストで優勝したじゃん。クラス代表で、ミスXって名乗って」
衝撃にぱくぱくと口を動かすタカコ。
「あれ、これって内緒の話なの?」
妙な反応にキリシマが申し訳ない顔になった。
「どうして、そのことを知ってるの?」
「知ってるっていうか、普通解るでしょ。身体付きとか姿勢とか、まんまだし」
「ひょっとして、みんな気付いてる?」
血の気が引いて真っ青だ。
「ん、どうだろう。気付いている人もいるとは思うけど。大半はイスズに詰め寄ってたからな。でも、イスズはのらりくらりでさ」
イスズが適当にある事ない事を言いまくったせいで、なんとなくこの話題は冷めてしまった記憶がある。
「そっか、じゃあ、知らない人の方が多いよね。良かった」
「折角一番になったのに」
「ああいうのって、あんまり好きじゃないの。それに、あの結果はイスズの化粧があったからだよ。私、そんなに見た目良くないし」
「そんなもんかね」
どこからどう見ても美少女なのにな。と思いつつも、キリシマは話題を戻す。
「とにかく、今日はありがと。この借りは、いつか返すから」
「大袈裟だな。まあ、あてにしないで待ってるから」
そう言って、タカコは地味に微笑んだ。
<Fin>




