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【03-01】

●午前〇九時四三分●


 校舎の地下にはチーム毎に装備置場兼ブリーフィング用のスペースが用意されている。

 幅三メートル、奥行き五メートルの空間は、壁際に各自のロッカーが並んでいるせいか、数値以上に縦長に感じる。

 

 部屋の奥には収納用の三十センチ四方のプラスチックケースが乱雑に詰まれているが、全体的に整理整頓が行き届いている方だろう。

 それにしても、冷たいコンクリートの床と壁は、装飾性の欠片もなく味気ない事この上ない。

 

「前から思ってたんだけどさ」

 

 灰色の地味なアンダーシャツに首を通しながら、ソネザキが隣で着替えるオートマトンに切り出した。

 

「我は今、集中力を必要とする作業中だ。あまり話し掛けるな」

 

 当のドルフィーナの上はまだ白いシャツ、スカートを履いたまま灰色の短パンに片足を入れるところだった。

 当然片足立ちになるのだが、流石は高性能機械人形。ふらふらと揺れて実に頼りない。

 

「防弾素材のオートマトンにボディアーマーが必要なわけ?」

 

 分厚い強化プラスチックの防弾ベストを身に着けながら、ソネザキが続ける。

 

「良い質問だな。確かに我の装甲は拳銃や小銃くらいなら簡単に弾き返してしまう。だが」

 

 スカートのホックを外し下に落とすと、続いてシャツのボタンを上の二個だけ解いて頭から脱ぐ。

 

「当たると凄く痛いのだ。小銃の連弾を食らおうもんなら悶絶するぞ、冗談抜きで」

 

 足で器用にスカートを拾い上げると、シャツと一緒にくるくると纏めてロッカーに押し込んだ。

 呆れるほど不精な手際だ。

 

「しかも我は直ぐに心が折れるのでな。弾が掠めただけでも泣きそうになるのだよ」

「そりゃデリケートな事で」

 

 あまりにダメダメなコメントに半ば呆れてしまう。

 

 市街地用迷彩柄の繋ぎを着込み、補強用の金属プレートを付ける。

 肩、胸、腹に背中。続いて膝と肘にも。

 最後に分厚いブーツを履けば、着替えは完了だ。

 

「相変わらず身支度だけは早いな」

「アンタが遅過ぎるんだよ。ほら、後ろ向いて」

 

 背中のプレート装着に苦労しているドルフィーナを手伝いながら、残りの二人に目をやる。

 

「そんなにジロジロ見られたら着替えにくいよ」

 

 シャツのボタンをまん中くらいまで外した状態で止まったコトミが、直ぐ傍で食入るように見つめてくるアンズに苦笑を浮かべていた。

 

「こら、お前は思春期の男子生徒かよ」

 

 小柄なアンズの頭をソネザキが軽く叩く。

 

「もう! 何をなさるのです!」

 

 後頭部を押えて、アンズが振り返った。

 

「邪魔をするなんて無粋ではありませんこと。今は数ヶ月に一度のドキドキ生着替えタイムですのよ!」

「なんだよ。そのイベント」

「見目麗しいコトミさんの、あられもない姿を、心の奥底にしっかりと録画しておくのです」

「はぁ……」

「そして! 毎日、脳内再生を繰り返すのです! ヘビーローテーションで!」

「怖い発言をさらりとするんじゃない」

「それが純愛なのですわ。ご理解できません? 理解できるでしょう。理解すべきです。理解なさい」

「純愛らしいけど。コトミ、感想は」

「アンズちゃんが楽しそうだから、ボクも嬉しいかな」

 

 そう言いながらシャツを脱ぐ。

 控えめな身体を包むのは、水色のスポーツタイプのブラ。

 

「はうわぁ、もうたまりませんわ。内臓が鼻から溢れそうですわ」

 

 至極の表情を浮かべながらアンズが呟く。

 

 それを聞いたソネザキの頭に、左右どちらから? という疑問が浮かぶ。

 が、口には出さずに飲み込んだ。

 

 傍から見ている分には倒錯した危ない趣味だが、コトミ自身が迷惑でないなら、問題ないだろう。ないはずだ。ないに違いない。

 

 それよりも。

 

「さて、どうするかな」

 

 小さく漏らした言葉にアンズが顔を向けた。

 冗談を楽しんでいたさっきまでとは明らかに違う冷静な目だ。

 

「いや、装備の選択はどうしようかと思ってさ」

 

 無言の問いにそう答えた。

 

「今回は市街戦。しかも拠点強襲ですわ。定番ならC型装備ですわね」

 

 Cは突撃を意味するチャージの頭文字から。

 荷物を少なく動き易さを重視した装備だ。

 

「一七式軽量型小銃にハンドグレネード。更にバナナはおやつに入るのかと定番の疑問を呈したいところだが、ジャガイモが主食になっている状態では、そんな冗談も言えんな」

「ジャガイモは主食だよ。食べられるだけでも感謝しないと」

「コトミさんの仰るとおりですわ。役立たずのオートマトンはネジでも食べてればよろしいのに」

「そういうお前は、少しは胸が大きくなるようにミルクでも飲むんだな」

「わ、わたくしだって、あと数年すれば見事なプロポーションになりますわよ」

「新手の都市伝説か?」

「きぃぃぃ! ガラクタ人形の分際でぇ!」

「アンズちゃん、ダメだよ。危ないって」

「な、なんだ拳銃を抜くのか? いいだろう、降伏だ」

「うわっ、早っ」

「はいはい、ストップ」

 

 猪突猛進に脱線していく話をソネザキが遮った。

 

「アンズはS型、後はD型で。ドルフィーナは特殊集音機も」

 

 S型は長距離狙撃用の兵装。

 大型のスナイパーライフルをメインとている。

 

 D型はディフェンスの略だ。

 弾数の多い自動小銃に防弾加工された盾、拠点防衛用の装備になる。

 

 ソネザキの指示に三人が一瞬呆けた。その意味を数秒掛けて反芻。

 最も早くリアクションを返したのは、ドルフィーナだった。

 

「その選択は納得できんな。理由を聞かせて欲しいのだが」

「正直なトコ、勘なんだけどね」

「それでは理由にならんぞ。D型装備の重量がいくらあると思っているのだ」

 

 D型装備の小銃はやや旧型の一二式。通常の小銃に比べ、倍近い八十発の弾丸を搭載できる。

 更にその連射に耐えるべく、銃身や発射機構も頑丈な物になっている。

 

 弾丸が増えれば、重量は比例して増し、内部構造を強化すれば、これまた重くなる。

 結果、重量的には一七式軽量型小銃の三倍に達する。

 

 しかも、三キロを超える盾を左手に持つのだ。

 ドルフィーナが不満を露にするのも理解できる。

 

「集音機だって重いんだぞ。我は非力なのだ。根性がないのだ。その点を考慮すべきだ」

「オートマトンのバカバカしい主張はともかく、わたくしも頷けない部分がありますわ」

 

 スナイパーライフルにはいくつかの種類があるが、アンズが愛用しているのは超長射程ライフル。

 一メートル二十センチを超える丸みのある銃身から、ロングランスの愛称で呼ばれている。

 ボルトアクションによる専用弾丸と、マガジンによる拳銃弾の使用が可能で、後者の場合にはある程度の連射が効くというメリットを持っている。

 しかし、大型銃器故の宿命、専用の三脚でしっかり足場を確保しなければいけない。つまりは強襲任務向きではない。

 

「ソネザキは今回の任務が強襲じゃないって読んでるんだよね」

 

 繋ぎのファスナーを上げながら、コトミが疑問を口にした。

 

「報酬ポイントと任務の内容が釣り合わない。何か考えているのは間違いないと思うんだ」

「ふん、我にはその理由は既に推測できている」

 

 お見通しだという表情のドルフィーナ。

 

「貴方の意見を聞くなんて時間の無駄ですわ」

「まあまあ、聞いてみようよ。ドルフィーナの考えは?」

 


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