『文学少女の小宇宙』
僕は本が好きだ。小説もライトノベルも詩も絵本も図鑑も好き。色んな人の色んな世界観を自分で探検してる様なあの時間がたまらない。だから自然と放課後の僕の居場所は図書室になる。
「んー今日は『IQ84』でも読もうか…」
元来、というか性質?というか僕は話題にあがった本、を読むのに抵抗がある。メディアが面白いと取り上げているから読んでいるみたいな感じもするし、ミーハーと見られるのも困る。別に玄人きどりでもないけど…同じ扱いをされるのも嫌だったりする。しかし、時間がたった時、その本のブームが去った時にふと読みたくなる自分がいる。単に意地で当時読まないんじゃなくて…ああ、でもそうなのかもしれない。意地かもしれない。だけど『陰日向に咲く』には驚いた。結構話がしっかりしていてベタな恋愛小説だと思っていたのだけど全然そうではなかった。やはり芸人さんはコントを作っているだけある。話がしっかりとしている。しかし『ダンボール中学生』お前は駄目だ。面白いけどあれは小説じゃない、日記だ。
「でもなー…」
そしていつものように読むフリだけしてやめる。何だろう?いや、まぁ…気分じゃない。
「これでいいか」
『へんないきもの』と『どろんこハリー』、それと『僕は友達が少ない』という本を手に取り、僕はならべく後ろの端の席に着く。僕は何も考えなくていい小説が好きだ。読者に深く意味を問いかける小説もあるけど、ちょっと苦手だったりする。そういう読者に考えさせるものより、俺はこうだ!こう言う人間だと明言している自己中心的な小説がいい。「俺がこう思うから世界はこうだ!」…みたいな。まぁこの本は小説ではないけど。あ、でも生き物について「説」明する本だから、小「説」なのかもしれない。それにしてもこういう本を読む僕は、少し子供っぽいのかもしれないと感じる。
「んー…これなぁに?」
「ん?ああこれはオオグチボヤと言って…」
ずかんの絵に指をさしながら小さな女の子は言った。その子はいつのまにか僕の隣に座っていて、僕が机に積んでいた本を手に取り読んでいた。
「え!?こ、子供!?」
僕は図書委員を探すため図書室内を見回した。だけど、今日は僕しかいない。おいおい、仕事しろよ図書委員。てかどうしよう。誰なのこの子は。
「こっちもおすすめだよ!」
「うおっ!」
僕の手に何冊か本が乗せられる。おい、僕はまだ本を読んでいる途中なんだけど。
「この『GOTH』って作品はねぇー。一応ストーリーのキャラクターこそいるものの、短編小説を読んでいるみたいな構成をしていて、読みやすいの。ちょっとグロイ表現が多めなんだけど」
知っている。その作者の小説の中では一番好きな小説だ。しかし子供が読むには少々、いや大分難解というか、不謹慎じゃなくて…不摂生じゃない。要するによくない本ではないだろうか。
「で、こっちの『親指探し』。これは『リアル鬼ごっこ』を書いた人の小説なんだけど…」
彼女の話を手の平を前に出し、静止させる。
「…ちょっと待ってくれ。子供がこんな所いちゃー駄目だよ。早く帰りなさい」
彼女は不思議な顔をする。
「?…そっちだって子供じゃん」
おおう、生意気にも反論に出たか。高校生でも子供といえばまぁそーか。まーいい、ならばもうやめにする。別に一応忠告として言っただけ、「何でお前子供に何も言わないんだ」と言われた時の予防線を張った。ただそれだけの事なんだから。
「…ふーん。そ」
そういって僕は自分の世界に篭った。
「あ…」
少女はそう呟いて僕の横で硬直する。…何か空気が重い気がするのは気のせいだろうか?というか固まった感じ。横目で見ている少女は何か言いたげだ。…もー、
「何?どうした」
「いや…その…えと貴方はどんな本を読むのかなって」
そんな事を聞いてどうするんだろう?僕は思った。僕の意見なんか何の役にも立たない。
「なんでも」
「え?」
「なんでも読む」
これ程意地悪な返答も無いだろうが実際本当なんだから、しょうがない。
「そ、そう。なんでも…」
俯いて少女は何か考えている様だ。そして、
「れ、恋愛小説とかも読むの?」
と聞いてきた。何で恥ずかしそうなのかは疑問だけど…あれ?そういえば恋愛小説はあんまり読んでないな…。『電車男』位か。『いま、会いにいきます』…は映画か。
「意外と読んでないかもしれない」
「えー、なんでもじゃないじゃん」
うーん、でもべたべたな恋愛小説は正直気持ちが悪いと思う人間なので恋愛小説に手が出せないのがある。パンをくわえて曲がり角でドカーンみたいな…のはさすがに無いか。
「なんでよまないの?」
「んー単純に、」
苦手なんだよな。たまに泣かせようとする恋愛の小説の時もあるし。「え、ちょっと悲しい!」とか思うのは嫌だしなー。
「それは偏見じゃないのかな?これ!読んでみてよ」
「んー『いのちのラブレター』?いや、タイトルからして苦手っぽい」
「私のオススメです。後はこっちの…あれ?間違えた。ちょっと取ってきます!」
少女の姿が消えたとたん。僕は無性に眠くなる。
「あー…、いい日差しだ…」
机の上の本に僕の顔が吸い寄せられる。あの、オオグチボヤの絵に向かって。
あれ?ここはどこだろうか…。僕は今真っ暗な空間の中にただ浮いている。いや、厳密に言えば真っ暗じゃなかった。小さな光が僕の周りを漂っている。少し覗いてみる。
「おー、『進撃の巨人』」
僕の好きな漫画だ。光の中に僕の好きなものが浮いている。
「『化物語』」
僕の好きなライトノベル。ん?ライトか?ノベルか。
「『やっぱり猫が好き』」
僕の好きなドラマだ。
「『FF13』」
僕の好きなゲームだ。他人の意見なんか関係ない。
「『絶対絶命』」
僕の好きなアルバム。
ここは僕の好きなモノで溢れている。ここは僕の心が作り出した世界。いや、宇宙の方が近いかもしれない。好きなモノを好きと言える隙の無い僕だけの世界。
「ん?『いのちのラブレター』?これは僕のじゃないな。返しに行こう」
誰のか分からないその小説。タイトルからして恋愛小説の様だ。うへぇ。僕の宇宙のすぐ隣には知らない誰かの宇宙があった。あ、これ面白そうかも。
「『トリニティ・ブラッド』か」
誰かの好きなライトノベル。
「『Dr.HOUSE』」
誰かの好きな海外ドラマ。
「『flat』」
誰かの好きな漫画。
ここも誰かの『好きなモノ』で溢れかえっている。どれも面白いし、楽しい。
「誰の宇宙なんだろう…?」
僕は手に持っていた『いのちのラブレター』をゆっくりと開いた。
「あの、すいません。もう図書室閉めますから退出をお願いします」
「ん?ああ。すんません」
いつの間にか寝ていた様だ。積んでいた本は綺麗に片付けられていて僕の手には『へんないきものずかん』…では無く、『いのちのラブレター』という僕の知らない小説だった。
「あの、ここに小さな女の子見ませんでした?」
図書委員の女の子は怪訝な顔をして首をかしげる。
「よく…分からないけど子供がいたの?」
「え、いや…多分いたと思うんだけど…」
図書委員の顔がほころぶ。
「フフフ。寝ぼけてるんですか?」
「あ、そうかも」
図書委員は図書室のカーテンを閉めだしたので僕は急いで立ち上がり、図書室の入り口に向かう。
「あ…っと、これ返さないと…」
『いのちのラブレター』。僕はそれを手に持ったまま帰ろうとしていた事に気づいた。本棚に戻り、どこに返せばいいのか悩んでいると、
「それ、借りていきますよね」
彼女が言ってきた。
「え?いやこれは…」
「私のオススメです」
窓から差す夕日に照らされ、彼女の横顔は少し赤くなっていた。
人は常に自分の世界を持っていると思う。それは趣味だったり空間だったり、特定の時間だったり、温度だったり、感情だったり色々と。そういう時間の概念が無くて自分の好きな世界を今作のタイトルでは『小宇宙』とあらわした訳です。だから人を好きになるというのは、その人の宇宙に触れたい、探検したいって思う事なのかなーとか思います。そんな事を思いながら書きました。要するに図書委員の彼女は主人公の『宇宙』を冒険してみたかった訳ですね。少し甘酸っぱい恋愛小説というわけです。
初めて書いてみた恋愛小説でしたがどうだったでしょうか?というよりこれは恋愛小説なのか若干不安でしょうがないのですが…。何ていうか色んなジャンル開拓してみたいんですよね。次はホラーとか書きたいなー。
最後になりましたが皆さんは何故最初図書委員の子が、子供の姿で現れたか分かります?人が自分の世界を語るときや誰かを好きになった時って、子供になるからですよ(笑)。
ではではまたどこかで…。