この世の真実2
その木製の杯を口まで運び、そのままクイっと一口飲み込む。
その瞬間、ワイン独特の酸味と苦味が口に広がり、ワインが行き着いた先の胃袋を刺激した。
……中々渋いな。
いつも飲んでるワインはもっと甘いのに。
そんな感想を思いつつ、再び俺はワインを口にした。
「どうだ、美味いか?」
騎士のオッサンがニコニコしながら尋ねてきた。
そんな彼の顔はアルコールのせいか、頬が赤く染まっていた。
白人だがら、余計目立つのだろうか。
「あ、はい。めっちゃ美味しいです」
「そうかそうか。それは何よりだ。それより貴様、名は何と申すのだ?」
「え? えっと、吉沢 徹です」
俺がそう答えたら、オッサンは怪訝な表情を浮かべた。
「ヨシザ・トール?」
「いや、ヨシザワ トオルです」
「……おかしな名だな。そのような名は初耳だ」
オッサンはそう言いながら首を傾げている。
まぁ、たしかに外人には日本人の名前の発音は難しいかもしれない。
「あなたのお名前は?」
今度は俺が聞き返した。
するとオッサンはニヤリと口元を歪めた。
「ふっ、知りたいか?」
「え、まぁ、はい」
オッサンは俺が知りたいと言うとその場に立ち上がり、両手を腰にあてた。
「私はクネルフドルフ帝国、北方派遣軍、第一騎兵隊隊長のウィレム・シュタウフェンベルク。爵位は伯爵だ」
「………」
ダメだ。
本当に異世界に来てしまったのかもしれん。
騎兵隊やら伯爵やら、現代日本じゃあり得ないことを平然と言ってやがる。
もうわけ分からん。
もしオッサンの言っていることが全て事実なら、これまでの出来事はすんなりと納得出来るだろう。
いや、オッサンの発言がどうであれ、この自分が置かれている状況を見れば普通は分かる。
ここは日本じゃなくて、拷問や殺人が認められている異世界で、俺は何かの間違いで、この世界にやって来たのだ。
しかし、これほど辻褄が合うのにもかかわらず、俺の気持ちとしては認めたくなかった。
認めてしまえば、何もかもが崩れさりそうで恐ろしい。
もう二度と、家族や友人に会えない気がして恐ろしかった。
「どうした?顔が真っ青だぞ?」
そんな思考の海に漂っていた俺に対して、オッサンことウィレム・シュタウフェンベルクさんが声をかけた。
自分の自己紹介に対して、何のリアクションもなかったのだ。
そりゃどうしたってなるわな。
しかし、俺はそんなに青ざめていたのか。
「い、いえ。何でもありません…」
「ふ、まぁいい。私の紹介は以上だ。覚えておくがいい」
ウィレムさんはそう言うと、ワインを一気に飲み干した。
そんな俺たちの所に、一人の男が近づいて来た。
その男もウィレムさん同様、西洋鎧を身につけており、顔つきも厳ついものだった。
「ウィレム様、集落の一角に何やらおかしな物を発見致しました。ご確認をお願い致します」
「あぁ、分かった。すぐ行こう」
「ご案内致します。……それよりも、そちらの者は?」
男は俺を蔑むような目付きで見つめてきた。
「此奴はトールだ。先程、敵兵たちより解放してやったのだ。して、そのおかしな物とは、どのような物なのだ?」
「は、私が思うに、荷車かと。しかしその姿はあまりにも奇天烈でして、黒い金属と硝子のような物で作られているようで」
「ほぅ、それは面白いな。見に行こう」
ウィレムさんがその場に立ち上がった。
俺はそんな彼らを眺めていたのだが、彼らの会話を思い出した。
黒い金属に硝子の荷車……
って、完璧に俺の車やんか!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「む、どうしたのだ?」
ウィレムさんたちが俺に振り向く。
「その奇天烈な荷車… 俺の物です」