この世の真実
丸太に固定された俺をそっちのけで、周りの奴らは剣を振り回し、戦闘に夢中になっていた。
あちこちで怒声、罵声、悲鳴が響きわたり、その様子はさながら地獄絵図のようだった。
「に、逃げろ!!撤退だ!!」
一人の男が叫んだかと思うと、さっきまで俺を殺そうとしていた奴らが一目散に集落の出口を目指して走っていく。
騎士たちはそれに追い打ちをかけるべく、馬を走らせ、追いかけた。
「もう何がなんだか・・・・」
俺はそう呟くと、周りの様子を伺った。
誰も俺の存在に気づいちゃいない。
逃げるなら今しかない。
この程度の丸太なら揺らしたら、外れるはずだ。
「ふん!!・・・うおおおお!!!」
全身の力を込めて、ゆさゆさと丸太を揺する。
揺らしてみれば、案外脆いもので、揺れの反動により、丸太が地面との固定から解放された。
そして俺は重力に従い、そのまま頭から地面に激突した。
「うごっ!」
当然、そんな倒れ方をしたので否応なく顔面を強打した。
おまけに丸太の重みが俺の体を潰す。
先ほどの暴行に加えて、このダメージ。
もう何もかも嫌になる。
しかしこんなことをしている暇はない。
俺は倒れた丸太から繋がれたロープを外した。
これで自由になった。
まだ両手は自由ではないが、足さえ動けば問題ない。
車の所に戻って、さっさと脱出しよう。
ふらつく体を起こして、立ち上がる。
「車はどこや・・・・」
俺がここに連行された時は、車はまだ外にあったはず・・・
とりあえず外に出よう。
そう思い足を動かした矢先のことだった。
「そこから動くな」
背後から、ドスの効いた声が聞こえた。
俺は舌打ちをしながら、後ろを振り向く。
「う・・わ・・・」
そこにはまるで北斗の○に出てくるラオウみたいに体のゴツい、厳ついオッサン騎士がいた。
その騎士は俺を観察しているのか、じっくりと舐め回すように視線を下から上に移動させた。
「貴様、スペリオルの者ではないな。一体何者だ?」
騎士は低い声で俺に訪ねてきた。
す、すぺ?
何のことを言っているんだ、このコスプレ親父は。
しかし、とりあえず答えないと殺されそうなので俺は口を開いた。
「え、えっと・・・とりあえず俺はそのスペなんとかの者では無いです。はい」
「・・・・では何者だ。なぜこのような場所で囚われていたのだ。見たところ、妙な格好をしているようだが、このあたりの者ではないな?」
「えっと、確かにこの辺の者ではないです。俺、遭難してもうて、ようやく辿りついたのがここでしたが、なんかいきなり監禁されて・・・・ってか逆に聞きますけど、ここはどこで、あんたらは何者なんですか?しかも集団で大勢の人を殺して・・・」
俺が逆に質問すると、騎士は顔をしかめた。
「おかしなことを言う。今は戦時だぞ。敵であるスペリオル兵たちを殺して、何の問題があると言うのだ?ちなみにここはスペリオル公国の領土、ラインという土地だ。ま、今し方我らクネルスドルフ帝国の領土となったがな」
騎士はそういうと高らかに笑った。
「それはそうと貴様、東の民の者ではないのか?以前見かけた東の民によく顔つきが似ておる」
もう俺の思考回路はパンク寸前だった。
スペリオル公国? クネルスドルフ帝国? 東の民?
ただ笑って、その場に座り込むことしか出来なかった。
その後、俺は目の前で酒を酌み交わし、騒ぎ立てる男たちの様子を眺めていた。
騎士のオッサンが言うには、ここはアーリアという世界で、大陸の覇権を巡って、三つの大国が凌ぎを削っているらしい。
今は均衡状態を保っているらしいが近年、力を付けてきた第三国。ウェンデル王国が若干優勢らしい。
・・・そんなこと鵜呑みにできるかっちゅうの。
しかし、目の前の現実や、先ほどの出来事を思い返せば、辻褄が合うことが恐ろしい。
現代日本にこんな騎士たちがいるわけもなく、殺し合いなんて論外だ。
そして全員西欧人。しかしなぜか日本語が達者だ。
これって、いつか読んだ異世界をテーマにした小説に似ている。
主人公がいきなり異世界に飛ばされて、トラブルに巻き込まれるという・・・・
まさにこのことか!?
「おいおい・・・・まじかよ」
俺は頭をかかえて唸った。
「どうした?」
そこに先ほどの騎士の声が。
見上げると、両手に杯を持った騎士が立っていた。
「い、いや。何でもない」
騎士は俺の横にドサッと座ると、片方の杯を渡してきた。
「この土地の名産の酒だ。飲め」
手渡された杯をじっと見つめる。
赤い液体からはブドウの良い香りが漂っており、これがワインだと言うことが確認できた。