救世主・・・現れる?
それから数時間が経った。
暴行されていた時より、辺りは暗くなってきて、体力が著しく減った俺に隙間風が容赦なく襲いかかる。
目立った外傷は無いものの、かなりボこられたおかげで体を少し動かすのがやっとだ。
あんなにやられたのは、高校時代に悪い先輩に引っかかった以来だな。
あの時も、やっぱり一方的だった。
「へっ・・・なにやってんねん、俺」
ぼそりと呟くが、返事が来ることはない。
ああ、ひもじい。腹減った。寒い。痛い。
なんでこんなことになったのだろうか。
俺はただドライブデートをした帰りだっただけなのに。
事故って、遭難して、誘拐されて、ボこられて。その挙げ句に監禁。
このまま行ったら、確実に俺は殺されるかもしれない。
「こんな死に方は嫌やな・・・」
奴らはきっと危ないカルト教団か何かだ、絶対。
それか日本に潜伏中の過激派、テロリスト集団。
外人がだらけなのも頷ける。
俺はそんな奴らのテリトリーに不覚にも侵入してしまったのだろう。
つくづく、運が無い。
このまま殺されるのを待つしかないのか。
不意に目から涙がこぼれる。
「・・・いや、どうせ殺されるならいっちょ暴れたる。そんで何人か道連れにしたる・・・」
俺は痛む体に鞭打って、ゆっくりと起きあがった。
まだ諦めるのは早い。よく考えろ。きっと何か、助かる方法があるはずだ。
足りない頭をフル稼働させ、脱出方法を考える。
まずはこの牢屋をよく観察してみよう。
きっと何かヒントがあるはずだ。
まずは・・・・
3メートルほどの高さに、小さな小窓がある。
次に、木で出来た丸椅子。
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
・
・・・・特にめぼしいものは無かった。
「そう、映画とかゲームみたいに上手くはいかんよな・・・」
一気にテンションが下がった。
まあ、よく考えてみれば腕を縛られている状態で、何か出来るわけがない。
とにかく、両手を自由にすることから始めよう。
ガリガリガリ・・・・
煉瓦の少し尖った部分にロープを擦り付ける。
おっ!これは案外いけるな!
足下を見れば、藁のカスがぽろぽろと落ちているのが確認できた。
この調子で行けば、なんとか・・・・
俺は一寸の希望に縋るように、一心不乱にロープを削り続けた。
それから1時間ほど経過。
「はあ、はあ、はあ・・・まだか・・・」
未だにロープは切れないでいた。
確かに削れてはいるのだが、いかんせんロープが太い。
これだとあと何時間削り続けなければいけないのか。
「あーーーーっっ!!!!くそったれ!!!外れろや!!!」
削るのを止めて、力任せにロープを引っ張る。
が、悲しいことに外れはしなかった。
「ほんまにええって・・・・」
俺はその場に力無く、ズルリと滑り落ちた。
このままだと、本当に・・・・
脳裏に自分の末路が浮かび上がる。
いつか見た映画の絞首刑の様子だ。
ガチャ・・・
扉が開けられた。
黒い人影が、小屋の中に入ってきた。
さっきのオッサンだ。
「喜べ、楽しいショーの始まりだ」
ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべるオッサン。
俺はそれを力無く見上げるしかできなかった。
牢屋の扉が開けられ、オッサンが中に入って来る。
そして俺の胸倉を掴み、無理矢理引っ張り起こす。
「ふん、さすがの魔物様も堪忍したようだな。良い様だ」
「黙れ・・・」
「最後まで口の減らない奴だ。まあ今更何をしても無駄だ。さっさと外に出ろ」
オッサンにケツを蹴られて、俺は小屋の外に滑り出た。
そこに聞こえる歓声。怒号。
見上げてみると、何人もの人間が中央に鎮座する薪の山を囲むようにして集まっていた。
各自、手には松明が握られ、罵声を発する度にその松明を振っていた。
「この魔物め!!」
「裁かれろ!!」
「死ねー!!!!」
この空間全てに狂気が満ちていた。
「・・・ち、ちくしょう・・・俺が何をしたって言うねん」
思わず目に涙がこみ上げる。
正直言えば、今にもちびりそうだ。
「さあ、行くんだ・・・」
オッサンが指を差す。
その方向には薪の山。
俺を火あぶりにするのだろう。
有無を言わさず、その場所めで連れて行かれる。
そして一本の太い丸太に体を括り付けられた。
そこに司祭のようなオッサンが現れる。
なにか呪文のような言葉を連ねると、松明を手にした。
ああ・・
俺は死ぬのか・・
今思えば、短い一生だったな・・・
脳裏に楽しかった思い出や、家族、友人の顔が映える。
そして、まさに火が付けられようとした瞬間。
「て、敵だーーーーー!!!!」
遠くからそんな悲鳴が聞こえた。
すると柵が壊されたのか、騒音が聞こえて、馬の蹄の音が響きわたる。
俺を囲んでいた者たちは蜘蛛の子を散らしたように、その場から逃げ出していく。
その者たちを追うように、中世ヨーロッパの騎士のような格好をした集団が馬に乗って現れた。
騎士たちは逃げまどう人々を容赦なく切りつけていく。
「おいおい・・・何や、これ」
俺は呆然として、その光景を見つめることしかできなかった。