現地人との遭遇=ピンチ
遭難してから二日目の朝を迎えた。
もしかしたら、目覚めたらベッドの上だったとかいう甘い期待は悉くぶち壊され、相変わらず狭い車内に毛布にくるまる俺が存在していた。
「朝、か」
時刻にすれば、朝の9時くらいだろうか。
さんさんと照りつける太陽が眩しい。
夜の寒さも嘘だったかのように、今はぽかぽかしていて心地よかった。
「あー、やっぱり現実かよ。夢やったらさっさと覚めろやー」
そんな俺の文句も虚しく、辺りに響きわたるだけだった。
それから軽い朝食(かなり節約した)を済ませ、一服をしてから俺は車に戻り、シートベルトを締めた。
そしてエンジンをかけ、ギアをPからDに入れる。
「よし。行動あるのみや。とりあえず動こう」
アクセルをゆっくりと踏み、車を進ませる。
しかし何分、路面が舗装されていないので車は進む度に上下に激しく揺れた。
「くそ、サスがいかれそうやん」
おまけに軽四だから、こういう環境を走行するのには適していない。
だからバンパーを岩で擦ったりして、俺の気分は最悪だった。
これ、オカンが知ったら殺されるやろうな。
そんなこんなでしばらく走っていると、ようやく道が開けてきた。
アスファルトで舗装はされていないものの、走る分には良い路面状態だ。
やっとまともに走れるようになったからか、俺はカーステを起動して音楽を大好きなアーティストの曲を爆音で流しながら、舗装された道を進んだ。
「俺のハートはラブリーハート♪君を必ず捕まえるぜえー♪」
自分の状況もすっかり忘れた俺は、どこかにドライブにでも来たかのように歌を口ずさんでいた。
道の両サイドにはたくさんの木。眩しい太陽、どこまでも続くまっすぐな道。
ドライブには適した環境だ。
もともと俺はドライブが大好きなのだ。
こんな素敵な道を走れば、今の状況なんかすぐに忘れることなど簡単だ。
「ああ、君を今すぐ抱きしめたいー♪って、あれ?」
俺は歌うのをやめた。
その理由は12時の方角、距離200程度に人影らしきものを発見したからだ。
「あれって人やん!久しぶりに人に会えた!」
とりあえずここはどこか訪ねてみよう。
そう判断した俺は急いで車をその人に向かわせた。
ところが、あともう少しというところで、その人は何かに怯えたように一目散に逃げ出してしまった。
俺はその人を追おうとしたが、その人は森の中へと入って行ってしまったので諦めるほかなかった。
でも手がかりはある。
ここに人がいたということは近くに街があるということだ。それはこの道も保証している。
街に行けば電波もあるだろうし、ここがどこかも分かる。
そうと決まれば、早速俺は人が歩いてきた方向に向けて、車を進ませた。
車を走らせ約15分。
ようやく建造物らしきものが視界に入ってきた。
だが、街というよりは村に近く、何やら丸太でできた柵が村の周囲に張り巡らされている。
どうも様子がおかしいので、俺は車を村の入り口らしき所へと近づけた。
すると驚いたことに、入り口付近に立っていた男が、こちらを見た瞬間大きな声を出した。
その声を聞きつけたのか、村の中からわらわらと人がたくさん出てきたではないか。
しかもその手には物騒な物が握られている。
「ええっ!? なに?なんなん?」
俺がそんな彼らに驚いていると、一人の男が一歩前に出てきた。
よく見ると外人である。
「魔物に告ぐ!これより先は我が村の領域である!もし一歩でも踏み入るならば、容赦はせぬぞ!」
と、言ってきたのである。
「ちょ、何言ってんの、あの外人。しかも日本語ばり上手いし」
男たちはすごい形相で俺のほうを睨み付けてくる。
それも今にも飛びかからん勢いで。
これは何かの映画の撮影だろうか?
それにしては撮影を行うスタッフの姿が見あたらない。
俺はとりあえず話しだけでもと、車の外に出た。
しかしその瞬間、俺の足下にズドっと何かが突き刺さった。
「え、矢?」
「突撃ー!!!」
男たちが俺の方向に突撃してきた。
「うわ、ちょちょ・・・待ってや!」
瞬く間に俺は男たちに取り押さえられたのだった。