旅立ち
時刻は午前1時。
俺は自慢の軽四(親の車)で県内を南北に縦断するバイパスを軽快に飛ばしていた。
「リカちゃん可愛かったなあ。次はいつ遊ぼうかなあ? 今日の感じやったら次くらいは落とせるんとちゃうか?」
俺は今日、狙っている女の子とドライブデートに行ってきた。
そして今、その余韻に浸りながら帰路に就いているのである。
自然に表情が緩んでくる。
恐らく今の俺の顔はキモいだろう。
でもそんなことはどうでもいい。
今はどういう風に告るかが重要かつ優先すべき問題なのだ。
「俺のそばにいて欲しい・・・なんかちゃうなあ。俺のキャラやともっとこう・・軽い感じのがいいかもな」
一人でぶつぶつ呟きながら、来る告白の瞬間に向けてイメージトレーニングを行う。
「俺さ、お前のことが好きやねん。だから付き合ってくれ。・・ん~おしいけど、ちゃうな」
そんな感じで俺の妄想が膨らみつつある、その時。
俺の愛用のスマートフォンがメールの受信を知らすために、ぶるぶるとポケットの中で振動した。
「あ、もしかして」
俺は片手でハンドルを持ち、ポケットからスマートフォンを取り出す。
《あんた、いつまで遊んでんの?はよ帰ってきいや。おかん、明日車使うねんから。》
スマートフォンの画面に映る送信者の名前は母親であり、内容は以上の通りだった。
「ーっオカンかよっ!」
これほどの裏切りはないだろう。皆さんも経験があるはずだ。
この時ほどの裏切られた感じは、この20年の人生で五本の指に入るほどだ。
俺はそのままスマートフォンの電源を切ると、助手席に荒々しく投げ置いた。
「返せ、俺の純情!ときめきを!」
そして怒りに任せてアクセルを思いっきり踏み込む。
軽四だから可哀想なくらいにエンジンが唸り声をあげた。
しかしその反面、速度はそれほど上がらない。
車まで俺をバカにするのか。
積もりつもった苛立ちを解消すべく、俺はダッシュボードの上に置かれたタバコを手に取り、一本くわえると火を付けるべくポケットからライターを取りだそうとする。
しかし俺の手には何の手応えも感じられない。
「あれ、どこや」
周囲を見渡すと、自分の足下に転がっているライターを発見。
少々危険だが身を屈めて、ライターを救出しようとする。
と、そのとき。
けたたましいクラクションの音が響き、目の前が一気に明るくなった。
「あ、」
目の前に迫るダンプカー。
もはや回避運動もブレーキも行うには遅すぎた。
がっしゃーん!!
目の前が真っ暗になった。