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第九戦線観測録  作者: セルヴォア
第二章「帝都に穿たれた空白」

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第三十五話「追悼式の席次」

死者は、石に刻まれる前に順番を与えられる。


学術院比較室での面会は、秋季戦没追悼式を挟んで三日後へ回された。

追悼と秋季整理で院内導線が詰まる、とエリナは前に聞いている。

その言い方が気にかかったが、帝都へ来てからのユリウスは、もう驚かないようになっていた。

この国では、悲しみでさえ導線を持つ。


朝、宿舎へ届いた列席票は厚手で、封蝋の色だけがやけに深かった。

差出は典礼院。

名目は、灰白河方面局地再編功績者としての列席。

追悼に呼ばれているのか、戦功の証人として置かれるのか、文面だけでは分からない。


ユリウスは票を机に置いたまま、しばらく見ていた。

灰白河で死んだ者の顔は、紙にすると急に数が合わなくなる。

前に倒れた歩兵、橋材ごと沈んだ工兵、敷設途中で電話線に絡まったまま砲撃を受けた通信兵、観測壕で頭を上げて戻らなかった若い兵。

彼らは戦場では別々の死に方をした。

だが帝都へ届くころには、同じ文へ畳まれる。


「少尉」


エリナが、控えめに声をかけた。


「時刻です。遅れると、今度は追悼ではなく無礼の話になります」


「分かっている」


「たぶん、今日は何を着るかより、どこに立つかの方が重要です」


「帝都では、だいたいそうだな」


エリナは返事をせず、軍帽の角度だけを見て直した。

その手つきは冷静だったが、目は少しだけ固い。

彼女もまた、こういう場が好きではない。


帝都中央慰霊殿は、宮廷建築ほど華美ではなかった。

だが、節度のある厳粛さがかえって重かった。

白灰の石壁、薄く高い窓、黒い金属で縁取られた扉。

戦場の泥は一歩目で拒まれ、代わりに磨かれた床が、列席者の靴音だけを均等に返した。


正面には、大きな銘板壁があった。

近づいて見るには遠く、遠くから拝むには近い距離に置かれている。

死者を記憶させるための壁ではなく、死者を国家の内側へ固定するための壁に見えた。


香の匂いは薄い。

花は白く整えられ、軍旗は布の皺ひとつなく垂れている。

石と花と記章が、同じ規格で並んでいた。


入口脇では、典礼官が列席票と席次票を照合していた。

彼らは誰一人声を荒げない。

だが視線だけで、人を前へも後ろへも送れた。


ユリウスは自分の席次票を見た。

前から三列目ではない。

二列目でもない。

将官席から十分に遠く、しかし一般列席者よりは前。

戦功者としては置く。

だが、国家の悲しみを代表する位置には置かない。

そういう距離だった。


「きれいに作りますね」


エリナが小さく言った。


「何をだ」


「少尉の立場を、です。上げすぎず、消しすぎず」


ユリウスは票を折り、胸にしまった。


「死者の席ではないな」


「はい。生きている人の席です」


殿内へ入ると、席の意味はさらに露骨になった。

中央正面は皇帝親臨のための空席。

その左右に皇族傍系、外戚、典礼院上席、貴顕会議列席者。

その後ろに大貴族と上級将官。

さらに尚書院、参謀本部、学術院、各戦線代表。

遺族席は別だった。

同じ殿内にありながら、見える位置だけを与えられて、声の届く位置からは外されている。


前線の兵は、遺族のさらに後ろに近い側廊へ回されていた。

負傷兵の代表列もある。

だが中央軸からは外れている。

死に最も近かった者ほど、死者を語る位置から遠い。


ユリウスはそこで、式の骨組みを理解した。

これは死者を悼む場ではない。

誰が死者を悼む資格を持つかを、国家が配置し直す場だった。


弔鐘が鳴り、列席者が一斉に起立した。

楽隊の音は低く抑えられ、祈祷文は短かった。

言葉は美しい。

美しすぎて、死体の重さがなかった。


皇帝が入ると、殿内の空気が一段静まった。

誰も顔を上げすぎない。

だが全員が、誰がどこまで頭を垂れたかを見ている。

悲しみそのものより、悲しみの形式が先に共有されていた。


続いて、戦没者代表、遺族代表、東方軍代表の順で献花が進む。

その順序も、死者に近い順ではない。

国家の中心に近い順だった。


東方軍代表として前へ出たのは、灰白河の泥を知らない礼装将官だった。

その肩章と胸飾の重さは見事で、歩幅まで式次第に合っている。

彼は沈着な声で、帝国のために倒れた英霊への謝意と、継戦の誓いを述べた。

一つも間違ってはいない。

だがユリウスの耳には、その文の中に土がなかった。


灰白河の死は、あんなふうには並ばない。

声を上げる間もなく泥へ沈んだ兵がいる。

砲弾で体ごと消え、名札だけが残った兵がいる。

命令が遅れたせいで、誰にも見られず掘割で冷えた兵がいる。

死者は、帝都の文章ほど整っていない。


式辞が進むほど、ユリウスの中では別の数え方が始まった。

この将官は何人分の責任を背負ってここへ立っているか。

この席順は何人分の沈黙を土台にしているか。

この国は、死者を悼む前に、誰が悼んだことにするかを決めている。


視線を少し横へ送ると、ルドルフ・フォン・グランツの姿があった。

上席の将官列。

前線の失敗も局地勝利も、帝都では同じ礼装の中へ収まっていた。

彼は動かない。

まるで、この静けさそのものが自分の側にあると知っている顔だった。


ユリウスは、怒りより先に構造を見た。

ルドルフ個人の問題ではない。

ここでは、家格が悲しみの順番を決める。

前線で誰が踏みとどまり、誰が電話線を繋ぎ、誰が橋材を抱えて沈んだかよりも、どの家が国家の悲しみを代表できるかが優先される。

だから戦果は配分され、死者は整流される。


そして、その整流は危険だった。


死者の並べ方を誤る国は、次の戦争の備え方も誤る。

誰がどこで、なぜ死んだかを正しく数えなければ、補給も通信も教育も、結局は先例の中でしか直せない。

悲しみを家格へ通す国家は、損耗すら家格の言葉で理解し始める。


祈祷ののち、銘板壁前で名簿奉読が始まった。

だがその読み上げは、一人ずつではなかった。

連隊、旅団、方面ごとにまとめられ、さらに一部は「附属要員その他」で処理された。

歩兵、砲兵、工兵、通信、観測。

同じ死ではないものが、一つの言い方で均された。


ユリウスの指先が、膝の上でわずかに動いた。


灰白河西側で失われた電話班は、附属要員ではない。

観測兵は、その他ではない。

あの戦場では、むしろ彼らから先に死んだ。

それなのに、帝都の声はそこをまとめて呑み込む。


奉読は滑らかだった。

滑らかであることが、逆に不自然だった。


横の側廊から、布の擦れる音がした。

遺族席のどこかで、誰かが耐えきれず体を揺らしたのだろう。

だがその小さな乱れも、楽隊の低音にすぐ沈んだ。

この殿では、私的な悲しみは長く残れない。


式の後半、列席者へ小冊子が配られた。

式次第と、戦没者奉掲一覧の抄録。

上質紙で、薄く、持ちやすい。

持ちやすいことが、ユリウスには不快だった。


頁を繰る。

東方軍。

灰白河方面。

局地再編戦。

戦没者数。

負傷者数。

部隊別区分。


そこまでは整っていた。

だが、その下の細目で、一部の欄が妙に粗い。

工兵分隊は連隊附。

電話班は附属通信要員。

観測補助は補助要員。

戦場ではいちばん具体的に死んだ者たちが、いちばん抽象的な欄へ押し込まれている。


さらに、頁端の小さな注記が目に入った。

同一戦区内重複記載整理済。


整理済。


その二文字に、前線報告書の削り跡と、学術院から来た照会文の冷たさが重なった。

整理。

帝都は、事実を消す時、いつもそれに穏やかな名を与える。


「少尉」


式が終わり、人が動き始めたあとで、エリナが近づいてきた。


「顔に出ています」


「そうか」


「かなり」


ユリウスは小冊子を閉じた。


「名簿が粗い」


エリナはすぐに冊子へ目を落とし、該当頁を追った。

彼女は一度見ただけで、問題の置き方を理解したらしかった。


「人数は合って見えます」


「見え方の話だ」


「はい。内訳が消えています」


「死に方もな」


周囲では、将官たちが慰労と追悼の中間のような声で言葉を交わしていた。

誰も泣いてはいない。

泣いている者がいたとしても、それは中央軸の外でしか許されない。


ルドルフの列は先に動き、典礼官が自然な流れで道を空ける。

遺族席は最後だった。

去る順まで、席次どおりだった。


ユリウスは銘板壁をもう一度見た。

石は静かで、整っていて、間違いがなさそうに見える。

だが間違いは、たいてい整ってから始まる。


「エリナ」


「はい」


「これ、あとで見てくれ」


小冊子を渡すと、彼女は受け取って頁を押さえた。


「軍務省ですか」


「たぶんな」


「補助簿まで見ないと分かりませんね」


「分かる形にしてあるなら、まだましだ」


エリナはその言葉に、ほんの少しだけ眉を寄せた。

言いたいことは同じだった。

この国は、存在を消すのではない。

存在したことだけ残して、中身へ辿れなくする。


慰霊殿の外へ出ると、九月の空気は乾いていた。

石段の下には馬車列が並び、喪章と勲章が同じ色の群れの中で混ざっている。

帝都は今日、よく整っていた。

死者を悼む国家として、申し分なく見えるほどに。


だがユリウスには、あれが備えには見えなかった。


死者を正しい順で飾る国はある。

正しい形で泣く国もある。

だが、どこで何が失われたかを歪めたまま悼む国は、同じ失い方をもう一度繰り返す。


石段を下りながら、彼は振り返らなかった。

灰白河で死んだ者たちは、あの白い壁の中には収まり切っていない。

収まり切っていないのに、帝都はもう、収まった顔をしている。


その顔の滑らかさが、何より危うかった。

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