エピローグ:妹視点(現世)
姉の部屋は、あの日から時が止まったままだ。
壁一面に貼られた『STAR LIGHT』のポスター。そして、センターで微笑むKAITOさんのグッズたち。
「……本当、バカだよね。お姉ちゃん」
私は、姉の机の上に置かれた、クシャクシャになった銀テープを指でなぞった。
私の姉・田中美咲は、絵に描いたような「強火オタク」だった。
口を開けば「KAITOくんが今日も健康でありますように」と祈り、道にゴミがあれば「これでまた徳が積めた、神席に近づいた」と笑う。
正直、家族としては「もっと自分のために生きなよ」と呆れることもあった。
でも、あの日。
「見て! 初めて最前列が当たったの! 人生の運、全部使い果たしちゃったかも!」
そう言って、子供みたいに飛び跳ねて喜んでいた姉の顔を、私は一生忘れない。
それが、姉と交わした最後の会話になった。
葬儀が終わり、私は姉のスマホを預かった。
ログインしたままのSNS。そこには、姉の訃報を知らないファンたちからの、心配や中傷や、そして溢れるほどの「愛」が届いていた。
私は迷った末、姉のアカウントで最後の一文を綴ることにした。
@Misaki_SL_KAITO(美咲@スタライ★KAITO推し)
妹です。姉・美咲は先日、事故で亡くなりました。
姉は最期の瞬間まで、KAITOさんのこと、そしてスタライのファンの皆さんの幸せを願っていました。
姉がよく言っていたことがあります。「誰かを憎む時間があるなら、その一秒を、推しを愛でるために使いたい。徳を積めば、いつか世界はもっと優しくなるから」と。
姉の分まで、皆さんが幸せなオタ活を送れることを、家族一同願っています。
投稿した瞬間、通知が鳴り止まなくなった。
『嘘でしょ……。美咲さん、あんなに優しかったのに』
『あの日、アンチのデマを消してくれたのは美咲さんの言葉でした』
『彼女が遺してくれたタグ(#KAITOに届け幸せの輪)、僕たちが守り続けます』
画面を流れる何万もの温かい言葉。
姉が日々コツコツと積んできた「徳」は、姉がいなくなった後、こんなにも大きな「光の輪」になって、推しを、そして世界を守っていたんだ。
ふと、姉の遺品であるKAITOさんのアクスタの横に、見慣れない一輪の花が飾ってあるのに気づいた。
母に聞いても「知らないわよ、あなたが置いたんじゃないの?」と言う。
その花は、この世界には存在しないはずの、透き通るように美しい黄金色をしていた。
そして、部屋には似つかわしくないほど、高貴で、清らかな香りが漂っている。
「……ねえ、お姉ちゃん。あっちでも、オタクしてるの?」
窓から差し込む陽光が、その花をキラキラと輝かせる。
まるで「最高の神席を手に入れたよ!」と、姉がドヤ顔で笑っているような気がした。
姉が一生をかけて推した『愛』は、今も誰かの心の中で、一番綺麗な宝物として輝き続けている。
お読みいただきありがとうございます。
現実での美咲が遺した「徳」が、どれだけ多くの人を救ったのかを描きました。
次はいよいよ本当の最終回。
推しであるKAITO本人の視点から、この物語を締めくくりたいと思います。




