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第5話:暗殺者? いえ、推しの栄養分です



 「――殿下、後ろです!!」


 王城の裏庭、静かな散策路に私の叫びが響いた。

 公式行事の合間、ようやく一人(壁)になれたと思った矢先。茂みから飛び出した黒い影が、アルフレッド殿下の背後から漆黒の短剣を振り下ろそうとしていた。


 エルザが失脚間際に放った、執念の暗殺者。

 前世で言えば、コンサート会場に刃物を持ち込む最悪の乱入者だ。


(私の推しに、何不浄なもの近づけてんじゃねええええ!!)


 考えるより先に体が動いた。

 私はドレスの裾を蹴り上げ、王子と暗殺者の間に割り込む。

「リリアーナ!? 危ない、逃げろ!」

 王子の叫び。だが、逃げるわけがない。

 私は両手を広げ、これまで貯めに貯めた「徳」を一気に放出した。


 徳積みスキル発動――【鉄壁の全肯定ガーディアン・バリア】!!


 ギィィィィィィン!!

 鼓膜を震わせる金属音。

 暗殺者の短剣は、私の鼻先数センチの場所で、目に見えない黄金の壁に阻まれていた。

 それどころか、あまりに純粋な「徳」のエネルギーに触れた漆黒の剣は、まるで砂糖菓子のようにパキパキと音を立てて砕け散っていく。

「なっ……なんだこの光は!? 俺の魔剣が……消滅した……!?」

「不浄な殺意など、推し――殿下の前ではただのゴミですわ。むしろ、その攻撃エネルギー、殿下の栄養として再利用リサイクルさせていただきます」

 私はさらに魔力を練り上げる。

 暗殺者が放った「殺気」と「闇魔法」を、徳の力で無理やり浄化し、キラキラとした光の粒子へと変換した。

 その光の粒がアルフレッド殿下を包み込むと、公務で疲れていた彼の顔にみるみる血色が戻り、肌がツヤツヤと輝き出した。

「な、なんだ……体が軽い。魔力が、かつてないほどに満ちていく……」

(よし、推しの美肌効果アップ完了!)

「おのれ、化け物め……っ!」

 武器を失った暗殺者が逃げ出そうとするが、私の放った光の鎖が瞬時に彼を捕縛した。

 そのまま地面に叩きつけられた暗殺者を冷たく見下ろし、私は告げる。

「殿下の美貌に傷一つつけることは許しません。貴方はそのまま、衛兵に引き渡されて一生地下牢で私の推しの素晴らしさを讃える経文でも写してなさい」

 暗殺者は泡を吹いて気絶した。


 ふう、と息を吐く。今回も無事に「壁」としての役割を果たせただろう。

 ……が、背後にいた王子の様子がおかしい。

 振り返ると、アルフレッド殿下は、顔を真っ赤にして自らの胸元を押さえ、呆然と私を見つめていた。

「……リリアーナ。君は、今、僕を『推し』と言ったか?」

(あ、しまった。口が滑った!!)

「い、いえ! それはその、古い言葉で『高貴なお方』という意味でして……!」

「嘘だ。今の光……あれはただの守護魔法じゃない。君の僕に対する、狂おしいほどの愛が形になったものだろう」

 王子が一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

 暗殺者の攻撃を変換した光のせいで、今の王子は通常の五割増しで発光オーラしている。眩しい。直視できない。

「自分の身を挺して僕を守り、あまつさえ僕の活力(栄養)にまでなろうとするなんて……。そんな献身的な女性を、僕は他に知らない」

「勘違いです殿下! 私はただの壁! 道端の石ころ! 空気なんです!!」

「石ころは暗殺者の剣を砕かないし、空気は僕をこんなに熱くさせない」

 王子が私の腰を引き寄せ、耳元で低く囁いた。

 

「……もう認めろ。君の心には、僕しかいないんだろう?」

(認知どころか、推しから「お前、俺のこと好きすぎだろ」って言われる地獄の確定ファンサが来たーーー!!)

 私は限界オタク特有の奇声(心の中)を上げながら、力尽くで王子を突き飛ばし、時速50キロほどの猛ダッシュでその場を後にした。


暗殺者の殺意すら推しの栄養(美容液)に変えてしまうリリアーナ、まさにオタクの鏡。

しかし、ついに逃げ場なしの「確定ファンサ(求婚)」が……!

物語はクライマックスへ。ぜひ最後まで見届けてください!


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