第2話:アンチの洗脳、オタクの浄化
王城のバルコニー。
そこでは、アルフレッド殿下が沈痛な面持ちで俯き、その隣で公爵令嬢エルザ――前世の最悪アンチ『STL運営ウォッチ★元KAITO担』が、甘ったるい毒を吐いていた。
「殿下、お可哀想に……。市井では『冷徹な王子』だなんて噂が流れているようですわ。でも、心配いりません。私だけは、あなたの本当の優しさを知っていますから」
出たわね。
私の鼻が、前世で嗅ぎ慣れた「デマの臭い」を検知してピクリと動く。
(まずは『お前は孤立している』と吹き込んで不安を煽り、唯一の理解者を装って依存させる……アンチがよくやる【孤立化工作】!)
アルフレッド殿下の瞳に、陰りが見える。
推しのそんな顔、前世でもう一生分見た。二度も見たくない。
「エルザ様。その『市井の噂』とやら、詳しく伺ってもよろしいかしら?」
私は扇を閉じ、優雅な足取りで二人の間に割って入った。
エルザが「何よこの女」と言わんばかりに目を剥く。
「あら、リリアーナ様。……殿下の評判を案じてのことですわ。殿下は厳格すぎて、民に恐れられているのです」
エルザが吐き出す言葉が、どす黒い霧となって王子の周りにまとわりつく。
あれは精神を蝕む闇魔法の一種。だが、私には通用しない。
「面白いことをおっしゃるのね。私の耳には、真逆の噂しか届いておりませんけれど?」
私は、前世で積み上げた膨大な「徳」を指先に込めた。
徳積みスキル発動――【聖域の可視化】。
「……えっ? 何、これ……」
王城の庭園に、黄金に輝く映像が浮かび上がった。
そこには、お忍びで街の孤児院を訪れ、子供たちにスープを配る殿下の姿。雨の中、泥まみれになりながら橋の修復を手伝う殿下の姿。
私が「壁」として城内を徘徊し、徳の魔力で記録し続けた「推しの尊い真実」だ。
「なっ、なぜこんな映像を……っ!?」
「『推しの――殿下の幸せを願う者』には、神様がご褒美をくれるのですよ。……殿下、ご覧ください。これが貴方の真実です」
映像の中で子供たちが笑う。その瞬間、殿下を包んでいたどす黒い霧が、私の光で一瞬で浄化された。
「……僕を、見ていてくれたのか。こんな、誰にも言わずに行ったことまで……」
殿下の瞳に、光が戻る。
その瑞々しい輝きは、まさにステージ上のKAITOくんそのもの。
(……っ! 尊い! 今の表情、公式生写真として全人類に配布したい……!)
悶絶しそうな心を鉄の意志で抑え、私はエルザに向き直った。
「エルザ様。根拠のない『悪い噂』を広めるのは、愛ではなくただの毒ですわ。……それとも、殿下を傷つけるのが貴女のエンタメかしら?」
「くっ……リリアーナ、貴女……!」
エルザは顔を真っ赤にして撤退していった。
アンチのデマなんて、オタクの「公式リサーチ能力」の前では無力なのよ。
さて、推しのメンタルも守ったことだし、私はこれで失礼しよう。
深入りは禁物。私はあくまで「壁」……。
そう思って踵を返そうとした、その時。
「待ってくれ、リリアーナ嬢」
殿下の手が、私のドレスの袖を微かに引いた。
「君は……伯爵家のリリアーナだったね。なぜ、僕のあんな細かい行動を知っていたんだ? まるで、ずっと僕を追いかけていたかのような……」
(……ぎくっ。追いかけてたっていうか、出待ちというか、監視カメラ(壁)になってたというか……!)
あまりに真っ直ぐな王子の視線。
推しと目が合う。それは清いオタクにとって「認知」という名の致死毒。
「あ、あ、あの、偶然です! 徳の導きです! それではご機嫌ようお達者でさようならー!!」
私は脱兎の如く、ドレスの裾を翻して走り去った。
背後で殿下が「あ、おい……!」と当惑する声が聞こえるが、止まれない。
無理。認知無理。
一方、バルコニーに残されたアルフレッドは、自分の指先に残るドレスの感触を見つめていた。
「リリアーナ……。あんなに熱心に僕を擁護しておきながら、名前を呼んだだけであんなに怯えて逃げ出すなんて……」
彼の中に、今まで感じたことのない奇妙な好奇心が芽生えていた。
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推しの名誉は命より重い。姿を見せずにアンチを完封するリリアーナですが、うっかり**「証拠の品」を現場に残してしまい……?
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