62 無事帰還
あれから数日。
俺の心配をよそに、無事イスペン村に到着することができた。
村に近づくにつれてパルマと子ナイトウルフのピリピリ感もなくなり、落ち着いたものだ。
zzzzzz
落ち着きすぎたのか、子ナイトウルフは鼻ちょうちんを膨らませながら眠っている。
いいことだ。
揺すっても起きないのはあれだが、不安で寝れないよりはマシである。
「いよっ」
お姫様抱っこは無理なので、おんぶして馬車を降りた。
zzzzzz
このままラウルに会いに行こう。
「わん」
メイドさんに足の裏を拭かれた瞬間、子ナイトウルフが起きた。
「わんわんわわわん」
「暴れるな。今、降ろしてやるから」
寝入ってしまったのが不覚だったようだ。
顔と同じくらい尻尾もうなだれている。
「気にするな。ほら、いくぞ」
「申し訳ありませんでした」
応接室に入った瞬間、ラウルに深々と頭を下げられた。
意味がわからない……こともない。
王都での冤罪事件の一端にはセーバスの死亡が関係しており、間接的に事態の複雑化を招いてしまった、とたまたま居合わせたササナが教えてくれたからだ。
それをラウルが謝っているわけだが、その必要はない。
悪いのは、セーバスを殺した犯人である。
(いや、俺が来なければセーバスが村を出る必要はなかったんだから、原因は俺か)
申し訳なく思うが、謝罪はしなかった。
部屋の空気からして、それをしたら、さらに気を使わせてしまう。
「セーバスの死は残念だけど、あたしが発見したのは不幸中の幸いだったわ。あのまま放置したら腐るか、魔獣の餌になるだけだもの。王都で荼毘に付され、遺骨だけでも帰ってくるなら、気持ちの整理もつけやすいでしょ」
「そうですね。彼の遺族には、手厚い弔慰金を支給します」
「それはいい判断ね」
「ありがとうございます。判断といえば、クロムハイツ様の移住の件はどうでしたか?」
「無事、王様から魔檻の森に住む許可は貰えた。これがその許可証だ」
「魔族領も手続きは完了したわ。これがその証明書」
俺が置いた許可証の隣りに、ササナが証明書を並べた。
どちらにもお硬い文章で、俺が魔檻の森へ定住することを認める、みたいなことが記されていた。
「証明書って、だれが保管するんだ?」
「必要ならアンナに預けるわよ」
……
「いらねえかな」
「そう。じゃあ、ラウル邸で保管してもらいましょう」
「よろしいのですか?」
「あたしが持ち帰ってもいいけど、必要なとき手元にないと困るでしょ」
「ですが、改ざんなどの危険性もあるので」
「安心なさい。それは複製で、原本は魔王城で厳重に管理されているわ」
ラウルがチラッと俺にむけた視線は、助けを求めているように思えた。
自分に関係ない重要書類を預けられるのだから、当然だ。
「んじゃ、俺が保管する……けど、許可証のほうはどうする?」
「複写だけもらうわ」
白紙を重ね、ササナが手のひらで撫でた瞬間、それは出来上がった。
「凄い魔法だな」
「そんな難しいモノじゃないから、今度教えてあげるわ」
「ありがたいけど、遠慮しておく。初心者が手を出すには、早そうだ」
「そう。なら、覚えたくなったら言って。それと、これはもらっていくわね」
複写を手に、ササナの姿が消えた。
俺も二枚の書類を、マジックリュックに入れる。
「いろいろ世話になったり迷惑もかけたけど、お隣さんとしてこれからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「用事があるときは呼んでくれ。すぐ来るからさ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、帰るか」
ご近所さんへの挨拶を済ませ、俺たちは魔檻の森に戻った。




