60 子ナイトウルフを抱きながら
「わん! わん!」
ガンナバルト商会から出た俺の胸に、子ナイトウルフが飛び込んできた。
「おおっ! 元気そうだな」
「わん!」
尻尾をブンブン振り回しべろべろ顔をなめる仕草は、まさに犬だ。
完璧な擬態を身につけたようで、非常に嬉しい。
これなら、どこにでも連れていける。
「それは駄目だよ。アンナ」
「マジで!?」
「ちなみに、僕が指摘してるのは、その構図だよ」
「構図?」
飼い主と犬が戯れているだけだが、なにが問題なのだろう。
「前に言ったよね? その子がナイトウルフだっていうことは、わかる人にはすぐわかるって」
……
「なるほど。人によっては、俺が襲われているように見えるわけだ」
「わん! わわん!」
かぶりを振って否定する気持ちは、よくわかる。
けど、大事なのは第三者の目だ。
「しょうがない。俺がビーストテイマーになるか」
「いや、学生のとき才能ナシって言われたよね」
思い出したくない過去だが、その宣告はたしかに受けた。
「でも、いまならイケる気がする」
「その根拠はどこからくるの?」
「あのころビーストテイマー同様、魔法使いの才能もないって言われたろ? けど、ちょっと使えるようになったんだ」
手のひらに、小さな小さな灯をともした。
「アンナの努力は認めるけど、魔獣をテイムするのは高等技術だよ。それと、同じくらい才能ナシと評価された僕でも、このくらいはできるよ」
マシューがこぶし大の火球を生み出した。
「い、いつの間に……そんな高等技術を……」
「ご主人様。失礼ですが、あれも初級魔術です」
ヒザを震わす俺に、パルマの残酷な指摘が突き刺さる。
けど、それが真実なのだ。
「……」
「わん」
パルマと子ナイトウルフが生み出した火球は、マシューの何倍もあった。
「お前ら、何してるんだ?」
「自分の才能の無さを痛感してるとこだ……って、ムシアラも無事だったんだな」
「ああ。この通りピンピンしてる」
「それはよかった。んじゃ、出発するか」
ここに留まるのは、精神衛生上よろしくない。
「僕は一緒に行けないけど、何かあれば連絡して。出来る限りのサポートはするよ」
「助かる。マシューも必要なモノがあれば連絡してくれ」
「ありがとう。元気でね」
握手を交わし、俺たちは王都を後にした。
「私は問題ありません」
ポーラド村に着いてすぐ、ムシアラがレアハムにイスペン村移住を打診した結果が、先の言葉だ。
快諾してくれてよかった。
もしかしたら断られるかも……と考えていたので、より安堵した。
「うん。美味い」
これまでもつまんではいたが、あらためて口したしょうが焼きは絶品だ。
「よかったですね。ご主人様」
パルマも顔をほころばせている。
やはり、知り合いが多いことは心強いのだろう。
……
残念ながら、子ナイトウルフはここにはいない。
「うふふ。もふもふでかわいい子ね」
店の一角で、淑女に撫でまわされているからだ。
「ねえねえ、家の子にならない? 美味しいご飯たくさんあるよ」
「わっふわっふ」
一瞬だけまんざらでもなさそうな表情を浮かべたが、すぐにかぶりを振った。
残りたいなら残ってもいいぞ、とは思うが、子ナイトウルフにも親がいる。
その意向を無視して、勝手に置き去りにすることはできない。
「淑女。申し訳ないが、その子は俺の家族なんだ」
「あら、それは残念ね。紳士。無理を言ったこと謝罪するわ」
撫でる手を止め、少女が踵を返した。
その後ろ姿は、シュンとしている。
ともすれば、消えてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。
「今晩だけ頼めるか?」
「わん!」
子ナイトウルフが少女を追いかけた。
「えっ!? どうしたの?」
「淑女。今晩だけは君を離したくないらしい」
「ふふ。悪い男ね」
自室に戻る少女は笑顔だった。
「あの、大丈夫ですよね?」
不安そうな両親に、もちろん、と言いたいところだが、一抹の不安はある。
「安心しろ。今夜はおれが見張ってる」
ムシアラの一言が、俺たちの心を落ち着かせた。
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