59 移住交渉
パルマと握手をしていたら、王様が現れた。
一通り指示を出し終えたので、こちらの様子を見に来たそうだ。
「魔檻の森に移住します」
これからのことを聞かれたのでそう答えたら、王様が渋い表情を浮かべた。
「……是非を告げる前に、いくつか確認させてくれ。まず第一に、王宮との取引は継続してくれるな?」
「もちろんです!」
大事な収入源を、こちらから手放すことはない。
「その際の窓口は、こちらが指定してもいいか?」
「かまいませんが、なるべく近場でお願いします」
「理由は?」
「住まわせてもらう条件に、魔族とも取引すること、ってのがありますので、遠いとなにかと不都合なんです」
「そうか。魔族とも取引するのか」
王様の渋かった表情が、なお一層渋味を増した。
「ダメでしたか?」
「いや、かまわん。ただ、何を納品したのかは、教えてほしい」
「こちらの移住を認めてくださるなら、お安い御用です。窓口になる方にお伝えしますね」
「助かる。で、肝心の窓口だが、ムシアラ・バイルはどうだ?」
「確認ですけど、ムシアラはポーラド村のギルドマスターですよね?」
「安心しろ。お主が首を縦に振るなら、ムシアラはイスペンの冒険者ギルドに転属してもらう」
ということは、窓口がイスペン村になるわけだ。
あそこならササナも来やすいし、交渉も一度に済ませられる。
ありがたい。
「ぜひそうしてください。ただ、本人の意思は充分に尊重してください。一緒にいたい人がいるなら、その方の意思も大事にお願いします」
レアハムと離れ離れになるような人事はダメだし、どちらか一方が勝手に決めるのもよろしくない。
きちんと話し合って、納得したうえでイスペンに来てほしい。
「わかった。打診してみよう。では、これが最後だ。パルマ・トーチスの処遇はどうするのだ?」
「奴隷契約を解消し、俺の魔法の先生として雇用します」
「ということは、魔檻の森に住むのだな?」
「はい」
「わかった。それならば問題なかろう。マシュー・ガンナバルトよ。手数をかけるが、雇用契約の手伝いをしてやってくれ」
「かしこまりました」
王様が踵を返し、部屋から出て行った。
一悶着あると思っていたが、意外なほどあっさり片づいた。
「アンナ。まずはこれにサインして」
王宮からガンナバルト商会に場所を移した俺の前に、パルマとの奴隷契約破棄書が差し出された。
異論はないので、サラサラっとペンを走らせる。
「パルマさんもお願い」
「承知しました」
手は動いているが、走りが鈍い。
まだ思うところがあるのだろう。
けど、それを追及したりはしない。
ゆっくりと消化すればいい。
「お節介だけど、二人の雇用関係はどうするの?」
「どうするとは?」
「給与とか待遇だよ」
「まったく考えてねえな」
それではいけないのだが、いかんせん他人を雇ったことがない。
相場は当然のことながら、それ以外のこともちんぷんかんぷんだ。
「奴隷契約を転用する? 給与とか禁足事項はそのままで、業務内容に魔法の授業を追加することも可能だよ」
俺に異論はない。
パルマもうなずいているので、問題なさそうだ。
……
言質を取るわけではないが、最終確認はしておこう。
「異論は?」
「ございません」
よし。
これで万事解決だ。




