57 無罪確定
「終わったな」
「ええ。見事な裁きでした」
王様とマシューが固い握手を交わしているが、俺が被告人である以上、なに一つ終わってはいない。
抗議の意味も兼ね、じ~っ、とネチっこい視線をぶつけた。
「大丈夫だ。わかっておる。では、改めて裁きを言い渡す。アンナ・クロムハイツは無罪!」
これで一安心……ではあるが、腑に落ちない。
というか、裁判自体茶番というか、出来レースだった気がする。
……
胸に言い表しようのないモヤモヤがうずまいている。
「アンナ、ごめんね」
「余からも謝罪する。此度はウィナー親子を出廷させるために罪を被せたこと、誠に申し訳ない」
国のトップに深々と頭を下げられたら、手打ちにするしかない。
けど、すぐさま終わりにできるほど、できた人間ではなかった。
「説明を要求します!」
「何が訊きたいのだ? 包み隠さず話そう」
「それは僕が代行します。王様には捜査のほうをお願いします」
「うむ。それはそうだな。では、ここは頼むぞ」
マントを翻し、王様は法廷を後にした。
マシューと二人きりになり、肩が軽くなった気がする。
感じていないつもりだったが、やはり緊張していたようだ。
「今回の件、アンナはどこまで理解しているの? 確認させてよ」
「なに一つ理解してねえな」
「とは言いつつも、わかってることもあるよね?」
「パルマが発端みたいだな」
マシューが拍手したということは、正解だ。
「パルマさんについて、アンナはどこまで知ってるの?」
「第二王女、ってぐらいだな」
「凄いね。パルマさん、そんなところまで話したんだ」
「話さなきゃならない状況になったんだよ。それより、マシューは知ってたのか?」
「アンナとパルマさんの奴隷契約書類を提出した後、王宮に呼び出されて聞かされたんだ。正直、他国の王女を奴隷市場に流すなんて考えられないから、信じられなかったよ」
よほど驚いたのだろう。
思い出しただけで、身体が震えている。
「すまん。迷惑かけた」
「気にしないでいいよ。本当に大変だったのは、その後だから」
「なにがあった?」
「パルマさんの所在を訊かれて、アンナの下にいる、って答えたんだけど、二人はすでに出立した後だった。その事実に、全員が大わらわだよ」
「俺たちは出会ったその日に旅立っているからな。タイム差があって当然だな」
「それがまた厄介でね。アンナたちは自発的に行動したんだろうけど、国としてはそんな行動を起こすわけがない、って認識だからさ。やれ誘拐だ。拉致だ。と喧々囂々。関与が疑われた僕も、無実を証明するために必死に動いたよ」
「悪い。報告はしようと思ってたんだけど、フットイにダメって言われてな」
「けど、その行動こそが幸いしたんだよ。ウィナー親子がアンナを追い出そうとしたのは、パルマさんを逃がさないためだからね」
「だから、家財道具は持っていくな、って言ってたのか」
「逃げられる可能性を極力ゼロにしたかったんだろうね。けど、まさか人を隠せるマジックリュックがあるとは、露とも知らずにね」
マシューは愉快そうに笑っているが、俺としては残念だ。
製作者としては、性能を充分に理解し、最大限活用してもらいたい。
「貴族ならマジックリュックの一つくらい持ってるだろ」
「言わせてもらうけど、アンナの作ったマジックバックを手にできるのは、王様クラスの重鎮と、信頼された側近だけだよ。少なくとも、肩書きに補佐が付いているのを恥と感じない人間が手にするのは、無理だね。第一、その発想に行き着くのも難しいよ。アンナ以外が作ったマジックバックは、ポーチサイズが精々なんだから」
「父ちゃん母ちゃんならイケるだろ」
かぶりを振られた。
にわかには信じがたいが、ここでウソを吐く理由はない。
「話を戻すけど、結果的にアンナがパルマさんを保護してくれたことで、ウィナー親子に疑惑の目が向けられたんだ。そして調べてみたら、まあ素行の悪いこと。正直、鳥肌が立ったよ。けど、同時に彼らの秘匿性もあらわになった」
違法奴隷を買った事実はあれど、きちんとした手続きを踏んで所有し続けていることになっているそうだ。
中には解放され、自由に生きている者もいるらしい。
「短期間で全容を調査するのは不可能だし、貴族の家を強制捜査するほどの証拠もない。困った僕たちは、彼らを法廷に連れ出して、その隙に屋敷から証拠を見つける賭けに出るしかなかった」
「あぶねえな。なかったらどうするつもりだったんだ?」
「あると信じてた! でも万が一を考慮して、王様には変装してもらったけどね」
足元に落ちている法衣には興味津々だが、話をしていて気づいたことがある。
「パルマは無事なのか?」
その姿を、しばらく見ていない。




