56 有罪
王様が現れた……ことにも驚いたが、それ以上に衝撃的だ。
(どうやって姿を変えていたんだ?)
裁判長は、絶対に別人だった。
法衣に隠れた体は誤魔化せても、素顔をさらしていた面はどうにもできない。
(たぶん、法衣の力だよな)
錬金術だろうか。
魔道具だろうか。
はたまた、王家に伝わる宝具の類だろうか。
もしかしたら、それらを組み合わせた複合品の可能性もある。
俺の知らない技術が用いられているなら、選択肢は無限大だ。
(だれが作ったんだろ? 記録とか残ってねえかな?)
興味が尽きない。
ばさっ、と脱ぎ捨てるぐらいだから、秘宝とまではいかないはずだ。
(う~ん)
触りたい。
物はすぐそこにあるのだ。
けど、手を伸ばして届く距離ではなかった。
「アンナの気持ちは痛いほどわかるけど、今の状況を考慮してほしいな」
「すまん。裁判の途中だったな」
マシューに肩を叩かれ、俺は我に返った。
「……お、王様が、なぜこのような場にいらっしゃるのですか!?」
「国を脅かす事件だからな。余が裁くのは必然だ」
「でしたら、すぐにアンナ・クロムハイツを処刑してください!」
「それは主らの証言次第だ。法務大臣補佐官を務めるゴクフット・ウィナーよ」
「我々は一介の錬金術師を国外追放に処しただけです。それ以上でも以下でもありません」
「アンナ・クロムハイツは、一介の錬金術師であるのか?」
「もちろんです。高名な両親から逃げるように、王都の端に住む最底辺の男です」
「では、その最底辺の男に国策を担わせている我が国も、最底辺であるな」
??
ウィナー親子と一緒に、俺も首をかしげた。
というのも、国策に関わった記憶が微塵もないからだ。
「王様、馬鹿なことを仰らないでください。親の金で奴隷を買い、弄ぶ輩にそのような大任は務まりません」
「これを見ても同じことが言えるか?」
配られた紙に記されていたのは、俺が納めた品物リストだ。
数こそ多いが、どれも国策に必要とは思えない。
「ま、まさか!? 防壁加工の塗料だと!?」
それはポーラド村に渡したモノだ。
価格は高いが、別段珍しくもない。
材料さえあれば、いつでも作れる。
「ゴ、ゴーレム強化の魔球!? アレは錬金術の最高到達点のはずだ!」
いや、コツさえ掴めば、そうむずかしいモノじゃない。
ただ、失敗すると錬金釜が爆発するので、要注意だ。
「マ、マジックバック!? あれは神の域に達した錬金術師にしか作れない伝説の品だぞ!?」
大げさすぎる。
そんなことを言い出したら、有能な錬金術師は全員神様になってしまう。
父ちゃん、母ちゃん、俺と、この国だけでも三人以上いるのだから。
「アレも……コレも……ソレも!? し、信じられない」
くず折れたゴクフットが震えている。
「オ、オヤジ!?」
「父を心配するのは立派だが、フットイ・ウィナー。そなたにも訊きたいことがある。先ほどの証言にあった、親の金で奴隷を買い弄んでおるのは、お主だな」
「違う! 俺様はそんなことしていない!」
「そうか。正直に話す気はないか。残念だ」
「申し訳ありません! 息子は魔が差しただけなのです! 寛大な処置をお願いします!」
「魔が差して三〇名を超す奴隷を殺すのか……それはもう、悪魔が宿っていると言わざるをえないな」
「いいえ、息子はそんなことはしておりません! いくら王様とて、証拠もなく我が子を侮辱するのはお止めください!」
毅然と立ち向かうゴクフットは親の鏡だが、悪手だったようだ。
怒りに顔を真っ赤に染める王様が、その証拠である。
「貴様らの土地から、いくつもの死体が発見されておる!」
「そんなわけありません!」
「まだシラを切るのか! 証人を連れてまいれ!」
縄で縛られ猿ぐつわを咬まされた老執事が現れた瞬間、ウィナー親子が目をひん剥いた。
「このほかにも、多数の使用人を確保しておる。言い逃れはできんぞ」
「してません! 我ら親子は、なにも悪いことなどしてはおりません!」
「オヤジの言う通りだ! 俺様たちは無罪だ!」
「そうか。ならもうよい。こやつらを牢屋に放り込んでおけ!」
『無実だ! 冤罪だ! 悪いのは、アンナ・クロムハイツだ!』
衛兵に引きずられその姿が見えなくなっても、法廷にはそう叫ぶウィナー親子の声が響き渡った。
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