55 王様登場
「裁判長、一つ確認させていただきたい事実が判明しました。よろしいですか?」
「駄目だ」
「なぜですか? この質問は被告人の量刑に大いにかかわるモノです」
「それは先ほど終わった。今この場で行われているのは、被告人の犯行動機の確認である」
「ならばこそ、我々に時間をお与えください」
「駄目と申しておるではないか……」
「よかろう。申してみよ」
マシューの熱意にあきれるゴクフットとは対照的に、裁判長は動かされたようだ。
「ありがとうございます。ではあらためて質問させていただきます。ゴクフット様は、ご子息であるフットイ様の慈悲で被告人を国外追放に処した、とのことですが、お間違いありませんね」
「貴様の質問に答える必要はない」
「拒否は許さぬ! さっさと答えよ!」
『チッ!』
裁判長からの叱責に、ウィナー親子の舌打ちが響き渡った。
(えっ!? バカなの!?)
「異議があるようだな」
あまりの愚行に驚いたのは、俺だけではなかった。
苦笑する裁判長も、その一人だ。
「勘違いなさらないでいただきたい。舌打ちに聞こえたのは、唇が乾いていたからです」
「なるほど。では、潤すものを用意しよう」
法廷にいる全員に水が配られた。
それを一口飲み、わざとらしく口を開閉させる。
音がしなくなったのをアピールし、あらためてゴクフットが口を開いた。
「追放理由が知りたいのでしたな。何度も申しますが、優しい息子であるフットイの慈悲です」
「では、もし仮に被告人が他国、いえ王都以外で同様の犯罪を行った場合、どう対処なさるおつもりでしたか?」
「たかが錬金術師に、そんな大層なことはできません」
「被告人はナイトウルフを使役して、王都を襲撃したはずですが?」
!!
ゴクフットの両目が見開かれた。
「あの時点で、そ、それはわかっておらなかった!」
「では、いつお知りになったのですか?」
「お、王都が襲われたときだ」
「なるほど。王都襲撃は被告人が行ったことだと、すぐに理解されたのですね」
「ああ。ピンときた」
「さすがはゴクフット様。我々凡百とは違いますね」
「と、当然だ。私は法務大臣補佐官なのだからな」
よくわからない自慢とともにふんぞり返るゴクフットに、マシューの意地悪な目がむけられる。
「私は自分を情けなく思います。イスペン村からの使者が来るまで、事態を把握できなかったのですから」
一瞬だけ、あっ! というような表情を浮かべたが、ゴクフットはすぐにポーカーフェイスを決め込んだ。
「オヤジ。マズイんじゃないか!?」
「黙っておれ。私が上手くやる」
親子のヒソヒソ話も、静かな法廷では筒抜けだ。
「その認識は間違っておりません。お二人の現状は、大変マズイものです。なにせ、追放すれば危険な人物と知りながら、あなたがたはそれを実行したのですからね」
「い、言いがかりだ」
「それこそ無理があります。こちらは、お二人の発言を整理しただけです」
「ふざけるな! 私は此度の調査に協力するために出向いたのだ! こんな非礼を受けるなら、帰らせてもらう!」
「お待ちください。まだ話は終わっておりません。お二人には、まだ訊きたいことが残っております」
「うるさい! 帰るぞ! フットイ!」
「もちろんだ! オヤジ! こんな無礼は記憶にない!」
「座れ! 退席は許さん!」
「裁判官ごときが、法務大臣補佐官に命令するな!」
「余の命令が聞けぬのか!?」
裁判長が黒い法衣を脱いだ。
(マジか!?)
そこにいたのは、ドワルムント王国現国王だった。




