53 劣勢
「まず最初に証明したいのは、被告人の適正です」
マシューが手を叩くと、俺を含むすべての者に紙が配られた。
父レーベン・クロムハイツと、母フローラ・クロムハイツの間に生まれる。
五歳より初等、中等、高等学校錬金術科に通い、首席で卒業する。
錬金術組合に所属した後、王都の端に開いた工房でつい最近まで過ごす。
俺の人生の略歴は、三行で済むようだ。
悲しくもあるが、その通りなので文句は言えない。
ただ、これで無実が証明できるのか、はなはだ疑問であった。
「見ての通り、被告人はただの錬金術です。他の科……具体的にはテイマー科ですが、そこに属した記録はもちろんのこと、授業を受けた記録もありません。冒険者ギルドへの登録も確認できない以上、被告人がテイムを習得することは、不可能です」
「異議あり! 被告人が冒険者ギルドに登録していないのは認めますが、それとテイムを習得する機会がなかったのは、無関係です。被告は錬金術に必要な素材を採取するため、自らの足で王都を出た記録が残っております。その際にテイマーから技術を習った可能性は、充分にあるでしょう」
「その推察は飛躍しすぎです。確かに被告人は素材収集のために王都を出ていますが、その時間や回数はわずかなモノであり、技術を教わるヒマなどありません。これが証拠です」
また紙が配られた。
今度は俺の出入国記録だ。
(マジか!?)
ビックリするほど少ない。
出不精なのは自覚していたが、あらためて表にされると、震えてしまう。
「弁護人は勘違いをなさっております。数が少ないから機会がない、ということはイコールではありません。今問題にすべきは、一回でもチャンスがあった、という事実です」
「それはごもっともです。しかし、技術を学ぶことは一朝一夕で行えたとしても、習得することはそうたやすくありません。まあ、こんなことは王立士官学校で法律を学び、弁護士として多様な法廷を経験されている先生、に言うことではないでしょう」
マシューと相手弁護士が火花を散らしている。
どちらも引く気はないようだ。
「では、こちらをご覧ください」
今度は弁護士が紙を配った。
!!
目が飛び出るほどビックリした。
数十を超えるナイトウルフを従魔にしたアンナ・クロムハイツによって、イスペン村は存亡の危機に面している。
至急、王都より騎士団の派遣を要求する。
イスペン村 村長 ラウル・イーエロ
「これはイスペン村からの使者が届けた書簡の写しです。これを見ても、まだシラを切りますか?」
マシューが唇を噛んだ。
額に汗が浮かぶ様子からして、劣勢だ。
シュバッ、と右手を上げた。
「何か言いたいことがあるのですか?」
裁判官の問いに、こくこくうなずく。
「いいでしょう。発言を許します」
「これを届けたのは、だれですか?」
「犯罪者に情報提供者の身元は明かせません」
「では、これは捏造ではないのですね?」
「もちろん。確かなルートで届けられたモノです」
ということは、この書簡を届けたのは執事のセーバスで、俺はラウルにハメられたことになる。
(なんか恨みを買うようなことしたかな?)
とんと心当たりはないが、状況証拠はそう物語っている。
「裁判長。これをご覧ください」
またも紙が配られた。
そこに書かれていたのは、俺と子ナイトウルフが並んで歩いていた、という証言の数々だ。
「アンナ・クロムハイツはイスペン村を出てすぐにナイトウルフを呼び寄せ、王都への旅に同行させた。恐怖に慄く私は、アンナ・クロムハイツの犬という戯言を信じたフリをすることしかできなかった」
御者の証言まであるということは、よほど用意周到に進められている。
(マズイな)
あれよあれよという間に、土俵際に追い詰められてしまった。




