52 開廷
カンカン、と打ち鳴らされた木槌の音が、室内にこだまする。
「開廷します」
王都に着いてすぐ、裁判の開始が告げられた。
「被告人前へ」
真摯な瞳で真っ直ぐ見つめる裁判官には悪いが、俺はすでに証言台に立っている。
というか、立たされている。
「被告は魔獣を使役し、国家転覆を謀ったことを認めますか?」
「認めます」
これは俺の言葉ではない。
発したのは、俺の弁護人的ポジションにいるマシューだ。
認めない。
ふざけんな。
訂正しろ。
言いたいことは山ほどあるが、口にすることはできなかった。
というか、発言を認められていない。
俺がそれを真摯に履行しているのは、事前に通達済みだからだ。
加えて、もし仮に勝手に発言したら、左右に控えている騎士に首を撥ねられても文句は言えない、とも忠告されていた。
おっかない。
けど、取り乱してはダメだ。
逆転のチャンスは、必ずある。
「フハハハハハ! オヤジ! アイツが罪を認めたぞ!」
「だから言っただろ。すべて私に任せておけと。ぶあ~っはっはっはっ」
原告席に俺を追放したデブと、その父親らしき貴族がいるのだから、間違いない。
ただ、それはおまけにすぎなかった。
俺がこの裁判が仕組まれたモノだと思う一番の理由は、開かれている場所にある。
王宮内にある特別審問室。
大っぴらにできない案件をごく少数で審議する場所であり、今まさに俺がいる場所でもあった。
ここで審議をすること自体、おかしいのだ。
当たり前と言われればそれまでだが、ドワルムント王国の裁判は、九割以上裁判所で行われる。
今は皆無の傍聴人も入れ、公明正大さを担保するのも常識だ。
国家転覆を狙った人間を裁くなら、よりそれを順守するべきだろう。
にもかかわらず、それが履行されないのだから、裏があるのは間違いない。
「被告人を処刑に処す」
「異議あり!」
危なかった。
マシューの反論が一秒でも遅かったら、おれは声を張り上げていた。
仮に大罪人が相手だとしても、審議は尽くされるべきだ。
会話のラリーを一度も行わず、判決にいたっていいわけがない。
「弁護人は今しがた被告の罪を認めたはずだが?」
「ええ。そこについて争う気はありません。ですが、量刑は別です」
「不服がある、ということかな?」
「もちろんです」
「これは、国家が下した判断、であると認識しているのか?」
マシューが首肯した。
絶対的自信がにじみ出る姿からは、言わなくてもわかるだろ、的な空気を感じる。
「オヤジ、アイツも一緒に処刑しちまおうぜ」
「馬鹿を言うな。ガンナバルト商会の息子であるアイツを殺したら、商会が黙っておらんぞ」
ヒソヒソ話のつもりなのだろうが、静かな法廷にバカ親子の会話が響いている。
周囲はもちろん気づかないフリをしているが、裁判官はこめかみを押さえて苦い表情を浮かべていた。
「被告人が罪を犯したのは事実ですが、小さな誤解が積み重なったのも事実です。それを考慮していただければ、減刑もありうるでしょう」
顔色はもちろんのこと、眉を一ミリも動かさず話を進めるマシューは大したものだ。
常日頃から海千山千の強者と渡り合っているだけあり、腹の据わりかたが違うのだろう。
「それは証明できるモノなのか?」
「もちろんです!」
両手を広げ席を立ったマシューが、広間の中央へと歩みを進めた。
よくわからないが、俺の未来を決める裁判の幕があがった。




