48 名探偵の推理はふわっとしている
「世の中は理解できないこと、説明できないことであふれかえっている。けど、嘆く必要はないんだ! なぜなら、真実はいつも一つ、だからだ」
「ご主人様には、その真実が見えているのですか?」
「ああ。ばっちりだ」
『おおっ!』
「わふ~ん」
リアクションは上々。
期待のまなざしがビシビシ突き刺さる。
……
「アンナ! もったいぶらずに教えてくれ!」
「その前に一つ、確認したいことがある。ムシアラ、王都が魔物に襲撃されたのは、間違いねえんだな?」
「ああ。森から外壁に魔法が撃ち込まれた」
「人的被害は?」
「ない。仮にあったとしても、警備隊に数名程度だな」
「なるほど。これですべてが繋がった。今回の事件は……不幸な偶然が重なった。それだけだ!」
結論をズバッと提示したが、手応えがまったくない。
というか、全員が首をかしげている時点で、ダメだと思う。
もっと順序立ててしべらなければ。
「まず事件の発端は、魔物による王都への襲撃だ。これは少なく見積もっても数十年ぶりのことであり、一大事だ。けど、よく考えれば、これはおかしなことなんだ。王都の外には常に魔物がいるのが当たり前なのに、襲撃がないほうが不自然だろ」
「そう言われればそうだな」
「ええ。ポーラド村は何度も襲撃にあっています」
「あっ!」
いぶかるムシアラとレアハムとは違い、パルマは気づいたようだ。
「そうだ。王都が襲われなかった理由は、俺がいたからだ」
??
口にこそ出していないが、ムシアラとレアハムからは、「なに言ってんだ!? こいつ?」という空気がにじみ出ている。
当然だ。
イスペンに行く前の俺なら、同じリアクションをしていただろう。
「実は俺、というか、クロムハイツの先祖と魔族の間には、お互いを思いやる、みたいな約束が刻まれているらしい」
「本当なのか?」
「恩人のアンナ様には申し上げにくいのですが、にわかには信じがたい話です」
「そりゃそうだよな。当事者じゃなかったら、俺だって信じらんねえ話だもんな。けど、本当だ。こいつがその証拠だな」
「わん!」
子ナイトウルフが、キメ顔を披露している。
凛々しくて精悍な立ち姿も相まり、男前だ。
「ってことは……やっぱりこいつは、ナイトウルフなんだな」
「やっぱり? ってことは、気づいてたのか?」
「ああ。一目見たときから、ナイトウルフだと思ってた」
「マジで!? 今までだれにも気づかれなかったのに」
俺と子ナイトウルフの肩が、がっくり落ちた。
「騙せるとしたら、素人だけだな。一定以上の実力か経験のある者なら、一目瞭然だ」
聞けば、犬と子ナイトウルフでは、内包する魔力量が圧倒的に違うらしい。
仮に犬が一だとするなら、ナイトウルフは最低でも一〇以上。
強い個体になれば、千や万の位もありうるそうだ。
所作からも知能の違いは明白で、偽装は到底無理らしい。
「そうだったのか。けど、俺たちはあきらめないぞ」
「わん」
「やる気に満ちてるのはいいけど、それと今回のことはどう関係するんだ?」
「それなんだけど、実は王都に引きこもっていた俺が外に出たことで、一部の魔獣が混乱している、とも教えてもらったんだ」
「誰に?」
「魔檻の森で知り合った、魔族のルシファー・マグナガルだ」
!!
ムシアラとレアハムが両目を見開き、周囲をチェックしだした。
顔から噴き出した汗から察するに、よほど焦ったのだろう。
「そ、それは本当なのか?」
「ああ。間違いない……間違いないよな?」
「はい。間違いありません」
「わん」
「そうか……ちょっと離れた間に、とんでもない人物と知り合ったんだな」
「よく知らねえけど、ルシファーって有名人なのか?」
「四天王に数えられる重鎮だ。冒険者からしたら、出会ったら死を覚悟する相手だ」
ムシアラが震えている。
それぐらい畏怖の存在なのだろう。
「で、そのルシファーの頼みで俺は王都に戻ってきたんだけど、その前にイスペン村から使者が着いているはずなんだ。で、彼がした諸々の説明がねじ曲がり、俺が魔獣を引き連れて王都に攻撃を仕掛けてきた、って誤解を生んだんだと思う」
要するに、ボタンの掛け違いだ。
それが不自然なくらいハマったから、とんとん拍子で指名手配まで突き進んだのだ。
ならば反対も然りで、誤解が解かれるのも早いだろう。
上手くいけば、その場で手配は解かれるはずだ。
「なるほど。それは一理あるかもしれないが、無理だな」
名探偵の推理は、早々に否定された。




