46 街道渋滞
ポーラド村が近づくにつれ、外が騒がしくなっている。
だれかとだれかがモメている、とか、冒険者と魔物が戦っている、とかではなく、やたら馬車とすれ違うのだ。
普通のモノから豪奢なモノまで選り取り見取りで、十数台を超える編成も珍しくない。
進行方向からして、王都から来たのだろう。
この規模で一斉に動くということは、なにかしらの有事が起こった可能性が高い。
「う~~~~~ん」
父ちゃん母ちゃん、マシューは無事だろうか。
「心配ですね」
「ああ。そうだな」
……なんて平静を装って返事をしたが、親しい人の少なさに身震いしている。
「大丈夫ですよ、ご主人様。皆さんご無事です」
それは間違いない。
父ちゃん母ちゃんは王宮勤めの重鎮だから、何者かに王都が落とされていたとしても、すぐに処刑されることはない。
マシューもガンナバルト商会の影響力を考えれば、そう簡単には殺せないだろう。
(っていうか、あいつらを殺せる人間なんているのか?)
争ったことはないが、三人とも手練れだ。
知力を含め、国内では指折りである。
本気で戦っている姿を見たことはないが、肌で感じたことはある。
「アンナ、いい加減ちゃんとしよ!?」
「アンナ、お母さんを困らせるな!」
マシューと父ちゃんには、節目節目で怒られた。
分水嶺を間違えると死ぬので、要注意だ。
「あんた、真面目にやりなさい!」
拳を握った母ちゃんが前に現れたら、即死ぬ覚悟をしないといけない。
迫力は閻魔様に匹敵するほど凄まじく、気絶しないように踏ん張るので精一杯だ。
……
あの母ちゃんが負ける姿は、想像もできない。
「うん。大丈夫だな。たぶん、目的のモノをいち早く献上したヤツに褒美を取らせる、みたいなお触れが出たんだろ」
「だとよろしいのですが」
「わふ~ん」
楽観的な俺とは対照的に、パルマと子ナイトウルフは不安げだ。
(俺がおかしいのか?)
なんて思っていたら、馬車が停車した。
ポーラド村……に着いたわけじゃない。
ホロの出入り口を開けて御者に理由を訊こうと思ったが、その必要はなかった。
見ただけでわかる。
大渋滞だ。
それがずっと続いている。
もしかしなくても、ポーラド村まで繋がっている。
「ありがとう。ここまででいいや」
「ですがお客さん。家としてはイスペンまでの往復代金を貰ってますんで」
「わかってる。もし先に帰ってラウルに支払いを拒まれたら、俺が後から払う……っていうか、今渡す。いくらだ?」
「犬の分も合わせれば、一五〇ドンです」
「あいよ」
ささっと現金で支払い、俺たちは馬車を降りた。
「よろしいのですか? 明らかにご主人様が損をしております」
「わんわん」
「いいんだ。あの遅さに付き合うより、時間を有意義に使えるほうが、絶対に得だからな」
優雅な旅は嫌いじゃないが、今はそのときじゃない。
ササナを待たせるのも心苦しいし、さっさと用事を済ませるべきだ。
「では、ポーラド村に急ぎましょう」
「おう」
「わん」
歩いて馬車の脇を通過するのだが、変だ。
ほぼ全部の馬車に傷がついている。
中にはホロに穴が開き、中が丸見えのモノもあった。
「魔獣にでも襲われたのか?」
「可能性はありますね」
「わん」
「大丈夫だ、お前じゃないことはわかってる」
かぶりを振る子ナイトウルフを撫でる俺を、だれかが見ている。
いや、正確には子ナイトウルフといる俺たちが注目されているのだ。
やはり、成犬と思わせるのは無理だったのだろうか。
「カワイイわんちゃん。いいなぁ」
女児の感想に、胸を撫でおろした。
大丈夫、このままやり過ごせる。
そう思った矢先、警備隊風の男に腕を掴まれた。
「お待ちしておりました! さあ、こちらにどうぞ!」
「はあ!?」
「きゃ!?」
「わふ!?」
訳もわからぬまま、俺たちはポーラド村に連行された。




