45 魔術の基礎
失敗した……と中継地を出発してから気づいた。
魔力探しに没頭したせいで、馬車を二頭立てにする交渉を忘れてしまった。
おかげで、馬車の進みは相変わらず鈍い。
そのストレスもあってか、魔力の扱いも全然上手くいかない。
「ご主人様。差し出がましいことかもしれませんが、落ち着いてください」
「うるさい!」
パルマの指摘はもっともだ。
自分でもイライラしているのがわかるのだから、なにも悪い事なんて言っていない。
なのに、声を荒げてしまった。
「わん!」
「駄目よ」
俺にむかって吠えた子ナイトウルフを、パルマが頭を撫でながらたしなめた。
こんなことをさせてはいけない。
悪いのは、未熟な俺だ。
「ゴメン。やつ当たりをした」
「大丈夫ですよ。わたしは本当に、何も気にしていません。遠い昔ですが、わたしも同じことを経験しましたので」
恥ずかしそうに髪を触るパルマは、思い出すのもイヤなのかもしれない。
長くない髪で顔を隠そうとしているのが、その証拠だ。
「もしかして、お前にもそんな思い出がある?」
「わふぅ~ん」
モジモジしているから、あるのだろう。
なら、俺にあるのも当然だ。
自分だけじゃないと気づいたからか、スッと気持ちが軽くなった。
胸に渦巻いていたイライラも感じなくなったし、今ならできる気がする。
目を瞑り、座禅を組んだ。
パルマのマネだ。
深く深呼吸を繰り返す。
何度も何度も何度も。
ボッ、と灯が点った。
小さな小さな灯だ。
それを消さぬように、空気を送り込む。
ゆっくりゆっくりと。
呼吸や気持ちの揺らぎに呼応して、灯が大きくなったりしぼんだりを繰り返す。
不安定だが、たしかに感じる。
(大丈夫。大丈夫。きっとできる)
思いとは裏腹に、灯がしぼんだ。
邪念が混じった結果だ。
「わんわん」
「シッ! 駄目よ」
焦るような子ナイトウルフの鳴き声に反応し、灯の勢いが急激に落ちた。
けど、消えたわけじゃない。
立て直すには充分だ。
二人の反応からして、これが魔力で間違いない。
(うっふっふっふっふ。いざ魔法の神髄へ)
…………
ダメだった。
余計な邪念が入ったせいで、灯は消えてしまった。
「ぅふぁん」
か細い鳴き声に目を開ければ、子ナイトウルフがうなだれていた。
「これは俺のミスだから、気にするな。単なる力量不足であって、ほかのなにものでもないぞ」
「わっふん」
かぶりを振られても、認めることはできない。
まごうことなき真実を、言い訳にしてはいけないのだ。
技術を習得しようとするなら、なおさらである。
「ご主人様」
「大丈夫だ。今度こそ成功してみせる」
豪語した以上、やりきらなければいけない。
できなければ、子ナイトウルフがまた傷ついてしまう。
負けられない戦いだ。
……
とはいえ、熱くなりすぎてもよろしくない。
冷静かつ、慎重に挑もう。
再度目を瞑り、集中した。
(おっ!?)
すぐに灯を感じた。
あっさりすぎてビックリだ。
もしかしたら、さっきでコツをつかんだのかもしれない。
けど、油断大敵だ。
(慎重に慎重に)
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと大きくしていこう。
はやる気持ちを抑えるように息を吸い、静かに吐いた。
すると不思議なことに、俺の中の灯が一回り大きくなった。
繰り返すたび、その反応は続く。
「もしかして、できた?」
「はい! 素晴らしい成果です! ご主人様!」
「わんわん!」
目を開くと同時に、パルマと子ナイトウルフが抱きついてきた。
我が事のように喜んでくれている。
嬉しいかぎりだ。
こうして俺は、魔術の基礎を会得した。




