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44 初めの一歩

「ではご主人様。改めて、魔術の訓練を始めましょう」

「よろしくお願いします」

「わん」

「まずは、体内の魔力を感じることからです」

「話の腰を折るようで悪いんだけど、俺の中にも魔力はあるのか?」


 生きてきて感じたことがないモノだけに、どうしても半信半疑になってしまう。

 それに、やってみてありませんでした、という結果は恥ずかしい。


「ご安心ください。魔力は保有しているのが当たり前で、ない者のほうが稀有です」

「ってことは、お前にもあるのか?」

「わん」


 子ナイトウルフが一鳴きしたら、小さな光球が生まれた。

 もしかしなくても、魔力の塊だ。


「まさか……使えるのか!?」

「わん」


 当たり前だ、と言わんばかりに、光球が大きくなった。

 ビックリだ。

 と同時に、侮っていた自分が情けない。

 子ナイトウルフは、本当に俺を助けるだけの実力を有していたのだ。


「お前、すごいなぁ~」

「わんわん」


 わしゃわしゃ撫でてやると、子ナイトウルフが尻尾をブンブン揺らす。


「ゴホン」


 パルマがわざとらしい咳払いをした。


「悪い。訓練の途中だったな」

「問題ありません、とは言えません。これから行うのは初歩の初歩ですが、絶対に安全とは言い切れないモノです。気が緩んだ状態で行えば、ケガもありうるでしょう」


 これは決して、脅しではない。

 どんなに熟練の者が教官として補佐してくれるのだとしても、当の本人が遊び半分の適当な態度で臨めば、重大な事故が起こっても不思議ではないのだ。

 錬金術を学ぶ際に、俺はそれを教わったことがある。


「ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」

「わん」


 俺と子ナイトウルフは、並んで居住まいを正した。


「そんなにかしこまらないでください。けど、真剣にお願いします」

「もちろんだ」

「わん」

「では、魔力を感じていただきます」


 パルマが俺の後ろに回り、肩に手を置いた。


「ど、どきどきするな」


 未知の体験を前に、手のひらに汗が浮かぶ。


「大丈夫です。リラックスしてください」


 肩がほんのり温かくなった。

 柔らかな日差しのようなそれが、徐々に全身に広がっていく。

 これが魔力なのだろうか?


 …………


 間違いないと思う。

 けど、これは俺の魔力ではなく、パルマの魔力だ。

 そう感じるのは、さっきから腹のあたりが熱いからだ。

 全身をめぐる暖かな力とは、あきらかに異質なモノがある。


「あれ?」


 熱量が消えた。

 腹の熱さも、全身をめぐる暖かさも、なにも感じない。

 俺がおかしくなったのかと心配になって見上げたら、笑顔のパルマと目が合った。


「急な変化に戸惑っておられるでしょうが、なんの問題もありません。簡単に言うなら、先ほどまではわたしの魔力でご主人様の体内を照らしていましたが、それをやめたせいで暗くなり、周りが見えない状態になっただけです」

「なるほど。見えるモノは変わったが、景色に変化はないわけだ」

「その通りです。では、今度は自力で探りましょう」

「えっ!? そんなすぐにできるの?」

「大丈夫だと思います。ご主人様の魔力量は、初心者としては優秀です」

「ありがたい評価だが、具体的な方法も教えてくれ」

「残念ですが、正解も近道もありません。ご主人様が感じたモノを、自分と向き合って探すしかありません」


 イメージが鮮明に残っている間が、勝負らしい。

 グダグダ文句を言うヒマもないので、集中しよう。

 まずは、見よう見まねだ。

 パルマが行っていた瞑想を思い出す。


(んん!?)


 肩が温かい気がする。


 ……


 気のせいかもしれない。

 時間が経てば経つほど、なにも感じなくなっていく。


 …………


 ダメだ。

 もうカケラも見当たらない。

 集中力も減る一方だ。

 一日目の修業は、大した収穫なく終わってしまった。


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