40 王都に戻ろう
ササナの頼みをきくため、王都に戻ることになった。
行くのは俺とパルマ。
ササナは残って、魔檻の森を中立地帯にするための手続きを進めてくれるそうだ。
「えっ!? セーバスさんはもう出発したんですか!?」
「はい。クロムハイツ様たちが出て行かれて間もなく、私がしたためた書簡を手に出立しております」
ラウルに窓口交渉の話もこっちで請け負うと伝えに来たのだが、一足遅かった。
急げば追いつけるだろうか。
「セーバスさんって、健脚ですか?」
「ええ。セーバスなら、往復に一週間はかからないでしょう」
聞けば三〇分以上前に出発しているらしく、追いつくのはむずかしそうだ。
「それは申し訳ないことをしました。実は、俺たちもドワルムント王都に戻ることになりまして」
「えっ!? 魔檻の森で暮らす手はずだったではありませんか? もしかして……ルシファー様との交渉が決裂したのですか?」
あわてたラウルが、椅子から転げ落ちそうになっている。
わからないでもない。
村の収入がなくなるとなれば、一大事だ。
「安心してください。俺たちは、魔檻の森に定住する手続きをしに行くんです」
「そんなことが可能なんですか?」
「条件付きですが、許可をもらいました」
「本当ですか?」
ラウルはよほど信じられないのか、疑わしい目を俺とパルマに目を向ける。
「ご主人様の発言に間違いはありません! もし疑念が拭えないのであれば、ルシファー様にご確認いただいても結構です!」
いつになくパルマの口調が強い。
だからこそ、説得力もあったようだ。
「申し訳ございません。疑ったこと、謝罪します」
「わたしではなく、ご主人様にお願いします」
ラウルが、再度俺に頭を下げた。
「そんなことしないでいいですよ。むしろ、謝らなくちゃいけないのは俺たちのほうですから。お忙しいセーバスさんに、無駄な仕事をさせてしまいました」
「お気になさらないでください。この旅は、セーバスの小休暇も兼ねておりますので」
なら、追いつけるかもしれない。
「よし。すぐ出発しよう」
「いますぐですか?」
「ええ。すぐにいきます」
「では、馬車をご用意しましょう」
「いえいえ、結構です。そのぐらいは自分たちでします」
「言い方を間違えました。実は、すでに馬車を手配済みなのです。お恥ずかしい話ですが、セーバスが使う予定だったのですが、本人から早馬が一頭あれば十分です、と断られてしまいまして」
ラウルが指さす窓の外には、馬車が一台待機していた。
何度も頭を下げるメイドに、御者が困った表情を浮かべている。
「我々を助けると思って、アレをお使いください」
「わかりました。けど、代金は俺が払います」
「往復で一五〇ドンです」
「一人分ですか?」
「いえ、お二人分です」
王都の半額だが、物価の違いはよくあることだ。
節約にもなるし、安いぶんには問題ない。
「んじゃ、これで」
一五〇ドンをラウルの机に並べ、俺たちは外に出た。
「困りますよ。こっちにも予定があるんですから」
「存じております。しかし、セーバス様は旅立ってしまった後ですので」
「キャンセルするなら、追加の料金をいただきますよ」
「その必要はないよ。君にはちゃんと王都に行ってもらう。ただ、乗せるのはセーバスではなく、このアンナ・クロムハイツ様と、パルマ・トーチス様だ」
モメる御者とメイドに割って入ったラウルが、俺たちを紹介した。
「料金は支払っていただけるんですよね? 領主様」
「もちろんだとも。これが手付金だ」
手のひらに乗せられた金貨を数えるごとに、御者の頬が緩んでいく。
「へっへっへ。たしかに」
「残りは事務所に届けておくよ」
「わかりました。お客様。出発はいつになさいますか?」
「いますぐだ」
「では、乗車ください」
「そのお二方は私の大事な人だから、道中の安全には細心の注意を払ってくれよ」
「心得ております」
ラウルの念押しを聞きながら、馬車が走り出した。
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