39 領地の貸し与え
「ふふ。パルマの問題は解決したみたいでよかったわ」
「そんな言いかたしなくても大丈夫だぞ。パルマのそれと、この地に争いを持ち込まない、ってのが別問題なのは、ちゃんと理解してる」
「ならいいけど、具体的にはどうするつもり? このまま放置して問題が起きてから対処する、なんて認めないわよ」
ササナの意見はもっともだ。
魔檻の森は魔族領なのだから、なにかあったとき共犯者と見られても不思議ではないし、最悪戦争の火種になりかねない。
解決策がないことには、枕を高くして眠ることはできないだろう。
……
とはいえ、なにをどうすればいいのか、さっぱりである。
得意なのは錬金術だけで、政治や交渉は素人だ。
人付き合いも薄いとくれば、手の施しようがない。
「う~~~~~~ん」
腕を組んで唸ってもダメだ。
良作が一つも浮かばない。
「助け船を出してあげましょうか?」
「お願いします」
「その必要はありません」
間髪入れず頭を下げた俺と、パルマの意見は違うようだ。
「あら? 方策があるの?」
「はい。わたしがここを離れます」
見事な解決策だ。
問題の根本であるパルマが姿を消せば、魔檻の森の平穏は保たれる。
けど、よろしくない。
「行く当てはあるのか?」
「ありません」
「金はあるのか?」
「ありません」
「ならダメだ! 目先の問題解決のためにパルマを放逐するなんて、俺は絶対に認めないぞ!」
「ですが、ご主人様」
「ですがもかかしもない! もし仮にここを離れるのなら、最低でも一年以上旅ができる資金を稼いでからだ! 雇用主として、俺はそこを曲げないぞ!」
「ですが……」
「ですがもかかしもない!」
食い下がるパルマを、ピシャッと一喝した。
「ずいぶん感情的なのね」
「当たり前だ。俺には雇用主として責任があるし、今パルマにいなくなられたら、生活に困るだろ」
掃除は苦手かもしれないが、新生活を迎えようとしている今、人手があるに越したことはない。
「……なんか、色っぽい理由じゃなさそうね」
「うるさい。それより、ササナの妙案を教えてくれ」
「妙案かどうかはわからないけど、この地を中立地帯にすることは可能よ」
「マジで!?」
「ええ」
とんでもない案が提示された。
自信満々なササナには悪いが、到底信じられない。
「それって領土の割譲じゃないのか?」
「違うわ。魔檻の森はあたしたち魔族の領土で、手放す気はないの。手続きとしては、貸し与えが適当ね」
「家賃を払えば、政治的に干渉しないってことか?」
「平たく言えばね」
魅力的な提案だが、俺に分がありすぎる。
「なんか裏があるんじゃねえか?」
「そう思うのは当然ね。でも、考えすぎよ。あたしたち魔族にとって魔檻の森は神聖な場所であり、滅多に足を踏み入れない土地でもあるの。そこをクロムハイツの子孫に貸すのに抵抗はないし、収入が得られるなら喜ばしいことよ」
「なるほど。土地を遊ばせておくより収入を得たい、ってことか」
「否定はしないわ。けど、あたしたちが欲しいのは現金じゃなく、アンナが錬金した品よ。それを、家賃の分値引いてほしいの」
上手い交渉だが、懸念もある。
「売る品物は指定されるのか?」
「多少リクエストさせてもらうことはあるでしょうけど、基本的にはアンナの作ったモノの中から、優先的に買わせてもらえればいいわ」
「んじゃ、最後に一つ。この地を中立地帯すれば、パルマの安全は保障されるのか?」
「それはなんとも言えないわ。けど、殺される心配はなくなるはずよ」
細かい問題が残るのはしかたがない。
すべてを即クリアーにできるほど、簡単な話でないのは理解している。
けど、俺やパルマやササナが一歩でも前進できるなら、いい提案だ。
「んじゃ、それでいこう」
「交渉成立。と言いたいところだけど、アンナには一つ頼まれてほしいの」
「できることなら、なんでも言ってくれ」
「ドワルムントに戻って、魔檻の森への不干渉を勝ち取ってきて」
なかなか難しいミッションだが、俺は胸を叩いてこう言った。
「任せとけ!」
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。




