38 パルマの肩書
大きく息を吐いたパルマが、キリッとした表情で俺に告げた。
「わたしは、イッタリーネの第二王女です!」
「マジか!?」
衝撃的すぎて、のけ反ってしまった。
けど、ここでウソをつく必要はない。
「黙っていて申し訳ございません。ご主人様に打ち明けるタイミングを、ずっと逃していました」
痛恨の極みといった表情だが、それも致し方ない。
出会って数日の者に話すには、重すぎる内容だ。
……
なんと言ったらいいのかわからない俺は、きょろきょろしてしまう。
「本当よ」
目が合ったササナに、太鼓判を押されてしまった。
こうなれば、受け入れるしかない。
そして、前に進もう。
「パルマ、災難だったな。でも、もう大丈夫だ。俺に任せとけ!」
「な、何をお任せするのですか?」
「帰国だ。いつにする?」
「わたしは帰りません!」
速攻で断られた。
断固たる決意を滲ませた表情からして、冗談でなさそうだ。
「理由があるんだな。じゃなきゃ、第二王女が賊に攫われて行方不明のままじゃ、イッタリーネが大変だろ」
「ご安心ください。わたしが死んだことになるなら、そのほうが国は落ち着きます」
「いや、さすがにそれは無理だろ」
「無理ではありません、と言っても説得力は皆無ですので、説明させていただきます」
「バウ」
「黙って聞こうな」
吠えた子ナイトウルフを撫でると、俺の心も少しだけ落ち着いた。
「今イッタリーネでは、一部の者たちによる後継者問題が発生しています。主な原因は、第一継承者である兄の素養です」
「問題がある人なのか?」
「兄の性格に問題はありません」
「ってことは、ほかに問題があるんだな」
「いえ、問題はありません。ただ一部の家臣からしたら、凡庸であることが不満のようです。そして、優しすぎるのもマイナスに作用しています」
わからないでもない。
高い地位に就く者に秀でた才を求めるのは当然だし、外交や政策を決める際に非情になることも要求されるだろう。
優しすぎてそれができないと懸念する家臣がいても、なんら不思議ではなかった。
「でも、だからって兄を降ろすのは違うだろ」
「もちろん、そう思っている者が大半ですし、大多数は兄を認めています。そして、兄もそのときに備え、心と体を鍛えています」
志が高い人物のようだ。
なら、問題はない。
けど、それはほかに優れた人物がいない場合である。
「他に兄弟はいるのか?」
「姉とわたしと妹がいます」
「優秀なのか?」
「姉は気立てがよく、絶世の美人です。性格的にちょっと抜けているところもありますが、それすらもチャーミングに思える才女です。妹はまだ八歳ですが、珠のようにかわいい子です。好奇心旺盛で無茶をすることもありますが、素直ないい子です」
立て板に水のようにスラスラ褒めるあたり、姉妹仲はいいのだろう。
「お兄さんは?」
「兄は確かに凡庸ですが、それを認めて努力を続けております。幼いころから、ずっと一廉の者になろう、と懸命に努めております。わたしはその姿勢を、誰よりも尊敬しています!」
訂正だ。
姉妹仲ではなく、兄妹仲がいいのだ。
「そんな兄を無能扱いし、姉を政略結婚の道具にしようとする者たちがいるのです」
悔しそうに唇を噛んでいる。
「でも、それとパルマが帰らないのは、別問題じゃねえか?」
「わたしには魔法の才があります。もちろんササナ様には及びませんが、イッタリーネ国内では、五指に数えられます」
「それはスゲェな」
「お飾りとして国のトップに据えるには、おあつらえ向きですね」
その一言でわかった。
パルマは、それを望んでいない。
「だから、死んだことにしたいのか」
「はい。そうなれば、兄以外に王位に就く者はおりません」
「いや、それは飛躍しすぎだろ」
「そうでもありません。これはここだけの話ですが、姉は近々幼馴染の商家に嫁ぎますし、幼い妹に大役は務まりません」
「成長するまで、現国王が生きてるかもしんねえぞ」
「父は大病を患い、公務から退くことが決まっています。ですから、大丈夫です」
「ならなおのこと、パルマは戻るべきだな。生きてることを知れば、お父さんも落ち着くだろ」
「心配をかけるのは心苦しいですが、兄が王位に就くまではできません。父もそれを望んでいます」
「言い切れるんだな」
「はい。わたしを国外に逃がしてくれたのは、ほかならぬ父です」
これが王族の強さなのだろう。
これ以上は無粋だ。
「わかった。すべてを秘密にしよう」
「ありがとうございます」
当たり前ですが、2025年最後の更新です。
ありがとうございました。
2026年もお付き合いくだされば幸いです。
それではみなさん、よいお年を!




