35 魔檻の森の家を貰う
「単刀直入に訊くわ。アンナは魔檻の森に、なにをしに来たの?」
「錬金術の神髄に触れるために」
「それを後押ししたのは誰?」
「ご先祖さんかな」
ルシファーに手紙を見せた。
「これをどこで?」
「ん~と、ちょっと待ってな…………おっ、あったあった」
マジックリュックをゴソゴソ漁り、一冊の本を取り出した。
これは先祖が遺した錬金術の指南書であり、件の手紙はこれに挟まれていたモノだ。
「驚いた。その本、まだあったのね。あたしも正確な時期は知らないけど、数百年以上前に書かれたモノよ」
「マジか!?」
「ええ。間違いないわ」
「にしては、キレイすぎねえか?」
大事なモノではあるが、あのゴミ屋敷で保管していたのだ。
経年劣化は加速している。
(うん。間違いないな)
よく観察しなくても、変色や表紙にある小さな擦り傷が目立つ。
けど、装丁はしっかりしているし、破れもない。
「ご主人様、これが数百年の本とは思えません」
「あたしも同意見だけど、錬金術の神髄の一つ、と考えればどうかしら」
「なるほど。だとしたら、ご先祖さんはスゲェな」
どうやったらこれほどのモノができるのか、俺には想像もできない。
けど、現物がそこにある。
なら、研鑽の先に辿るつける境地なのだろう。
そこに到達できるかはわからないが、挑戦すべき高みであり、わくわくが止まらない。
「好奇心が抑えられないのは、ご先祖様そっくりね」
「えっ!? 知ってるの?」
「お会いしたことはないけど、お婆様から思い出話をよく聞かされたわ」
「お婆さんはご健在?」
ルシファーがかぶりを振った。
残念だ。
元気なら、俺も話を聞かせてもらいたかった。
「それはそうと、アンナたちはこれからどうするつもりなの?」
「さっきも言ったけど、錬金術の神髄に触れたい」
「違うわ。あたしが訊いてるのは、どこに住んでどう生きていくつもりなのか、ってことよ」
「その辺は、あんま深く考えてなかったな」
突然の国外退去処分を受けての行動だっただけに、計画は皆無だ。
「なら、魔檻の森にある家は、アンナの自由にしていいわよ」
「えっ!? いいの?」
「もちろんよ。けど、いくつか条件を出させてちょうだい。まず第一に、争いを持ち込まないこと」
「当然だな。平和な日常ほど、尊いものはねえからな」
「第二に、魔族領と取引してちょうだい」
「その商談、我らも一口噛ませていただけませんか?」
ラウルの申し出は一向にかまわないが、ルシファーはどうだろうか。
大丈夫そうだ。
俺の目配せに気づき、うなずいている。
「んじゃ、魔族との窓口がルシファーで、人間との窓口がラウル……って言いたいところだけど、ドワルムントに確認してからだな」
一応王国と専属契約を結んでいるから、勝手なことはできない。
「では、それは私たちがいたしましょう」
せっかく来たのに舞い戻るのも面倒臭かったので、ありがたい申し出だ。
「お願いします」
「お任せください」
胸を張るラウルは、非常に頼もしかった。
「残念だけど、本契約は先になりそうね。けど、交渉はしてもいいわよね」
「もちろん」
渡りに船だ。
現金の余裕はまだあるが、先々を考えれば収入を確保しておきたい俺にとって、いいことしかない。
それに、詰めの交渉だけにしておけば、すべてがスムーズに運ぶ。
「じゃあ、場所を変えましょう」
ルシファーが席を立った。
交渉において、第三者の耳に入れたくない話もあるのだろう。
まあなんにせよ、俺に異論はなかった。
「んじゃ、魔檻の森にある家にしよう。あそこなら、ラウルたちとも連絡をつけやすいだろ」
「ご配慮感謝します」
ラウルが頭を下げるが、そんなことはしなくていい。
むしろ、そうしなければならないのは、世話になる俺の方だ。
「いろいろありがとう。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
俺とラウルは固い握手を交わした。




