32 一時退散
結論。
俺に触れた状態なら、結界を抜けられる。
ただし、直接触れていることが条件だ。
木の枝や布を間に挟んだ場合、通り抜けできなくなるので、要注意である。
「んじゃ、次はあそこだな」
ポツンと建ってる一軒家にむかう。
木造二階建てで、デザインもごく一般的。
ビジュアルで気になる点はない……のだが、気になる。
というのも、見覚えがあるのだ。
「家っぽいな」
蔦で覆われていないし、細かいデザインはまったく違う。
けど、そこに建っている雰囲気が、王都にある元わが家を思わせた。
不思議な感覚だが、親族が住んでいるからだろうか。
「すみません。ご在宅でしょうか?」
玄関をノックしたが……反応はなかった。
「すみません! どなたかご在宅じゃありませんか!?」
声を大きくしてもダメだ。
…………
物音一つしないのだから、不在なのだろう。
どうしたものか。
「わんわん」
「バウバウ」
駆け回る子ナイトウルフではないが、結界内を一周してみよう。
「パルマ。もしだれか出てきたら、教えてくれ」
「わかりました」
「バウ」
近寄ってきた子ナイトウルフが、同行してくれるようだ。
頭を撫でながら、出発した。
「なんもねえな」
結界内にあるのは、一軒家だけだ。
どの角度、どの側面から観察しても傷んだ個所がなく、窓ガラスもキレイだ。
家周りも雑草一本生えていないし、凹凸もない。
ほったらかしではこうはならないし、だれかが住んでいる証明だ。
「どれ」
窓から室内を覗いたが、人の姿はなかった。
けど、ホコリは積もっていないし、家具も設置されている。
生活の痕跡……に違いないのだが、室内から伝わる空気が寂しい。
思い込みかもしれないが、温もりや生活の匂いが感じ取れなかった。
「う~ん」
なんとなくだが、この家から明かりが消えたのは、ずいぶん前のことのように思えてしかたがない。
「ご主人。どうでしたか?」
「ダメだ。収穫なし」
「こちらも応答はありません」
これをどう判断するべきか。
錬金術の神髄に触れられる可能性を求めてきたが、この状況ではどうにもならない。
かといって、このまま帰るのもはばかられる。
残る手立てがあるとすれば……家の中を探ることだ。
「どうするべきか」
「何をですか?」
「俺に残された手は、住居侵入しかないんだ」
「は、犯罪すよ!?」
「もちろん理解してる。けど、残された手はそれしかない」
「ま、まずは時間を空けてもう一度訪ねてみるのはいかがでしょう。イスペン村で時間を使うことはむずかしくありませんし、むこうに家主が出向いている可能性も捨てきれません」
説得力がありすぎて、ぐうの音も出なかった。
自分では意識していなかったが、欲望に負け、だいぶ焦っていたようだ。
パルマが隣りにいてよかった。
もし一人だったら、罪を犯していただろう。
「よし。一度戻るか」
「はい」
「バウ!」
皆の賛同を得たので、イスペン村に戻ろう。
ただ、ナイトウルフを連れていくのは問題だ。
平和な村にいらぬ波風を立てるわけにはいかないし、この子たちが冒険者に狩られる姿も見たくない。
「すまないが、お前たちとはここでお別れだ」
「くぅ~ん」
「寂しいのは俺も同じだ。だから約束する。もう一度ここに戻ってくるから、それまで魔檻の森で待っててくれ」
一頭一頭と目を合わせ、うなずき合った結果……全員が森に散らばっていった。
これで一安心だ。
「お帰りなさいませ」
森の入り口まで戻った俺たちを、セーバスが待っていた。




