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31 結界は抜けられる

 一本道を進むと、前方に木造の家が現れた。

 周りに木々もなく、ポツンと建っている。


「バウバウ」


 子ナイトウルフが、嬉しそうに吠えた。

 歩調を俺に合わせているから駆け出せないが、うずうずしているのがわかる。

 やはり、こいつは飼いナイトウルフのようだ。

 目の前の家が住処で、俺の祖先が飼い主なのだろう。


 もにゅん


 柔らかい膜に接触した。

 けど、不快感も足止めされた感覚もない。

 異変やケガもない。

 パルマやナイトウルフたちは、どうだろうか。

 後ろを振り返ったら、だれもいなかった。

 いや、正確にはいる。

 柔らかい膜を感じた辺りだ。


「ご、ご主人様!?」


 パルマは驚いているが、ナイトウルフたちはそれが当然だ、みたいな表情をしている。

 キレイに整列していて、これ以上は行けません、といった感じも伝わる。


「どうした? なんかあんのか?」

「はい。ここに壁のようなモノが」

「それなら思い切って突っ切れば大丈夫だ」

「行きたいのは山々なんですが、いかんとも」


 パルマが壁を叩いたり、押したりする仕草をしている。

 冗談……ではなさそうだ。

 あの必死さがパントマイムなら、大道芸で飯が食える。

 よくわからないが、結界のようなモノがあるのだろう。

 試しに戻ってみたが、問題なく通り抜けられた。


「パルマ、ここに柔らかい膜があるよな?」

「いえ、柔らかい膜ではなく、硬い壁です」


 そもそもの感覚が違うようだ。


「お前たちも行けないのか?」

「バウッ」


 うなずくということは、肯定だ。

 なら、目の前の家の飼いナイトウルフではないのだろう。

 いや、そもそも飼い主がいるのだろうか?


 ……


 ダメだ。

 考えたところでわからない。

 というより、別のことに興味があって、思考が定まらない。

 まずは、より興味深い結界のほうにフォーカスしよう。


「だぶんだけど、ここにあるのは結界だよな」

「はい。そうだと思います」

「んじゃ、あそこに見えるのは、俺の先祖が遺した家だと思うか?」

「断定はできませんが、その可能性が高いでしょう」

「だよな。ってことは、この結界はクロムハイツ家だけが通れる可能性が高い、ってことになるか」

「おそらく。ですが、決めつけるのは早計です」


 パルマの言う通りだ。

 諸々の疑問を放置したまま、結論を出してはいけない。


「んじゃ、まずは簡単な実験をするか。ここ、触れるか?」

「バウ」


 子ナイトウルフが結界に触れたが、先には行けなかった。


「ありがとうな。いよいしょっ」


 頭を撫でた後、両手で持ち上げ確認した。

 男の子だ。

 乱暴な区別だが、性別や種族は無関係……というよりは、血筋がカギなのだろう。

 なにがどう判定しているのか謎だが、その線が有力だ。


(おもしろい!)


 好奇心が刺激され、わくわくが止まらない。

 今すぐあれこれ試したい……けど、ダメだ。

 結界内で事故が起こった場合、一巻の終わりになってしまう。

 俺がケガをしたり事故死するのは因果応報とあきらめることはできるが、パルマやナイトウルフたちに、なにもできなかった、という十字架を背負わせることは許されない。


「よし。悪いけど、もうちょっと付き合ってくれ」


 子ナイトウルフを抱えたまま、俺は背中向きに結界に触れた。

 通れた。

 子ナイトウルフも無事だ。

 抱きかかえていたからだろうか?


「バウッ」


 降ろして、と言ってるような気がするので、その通りにした。

 元気に走り回っている。

 中に入れたのが、よほど嬉しいようだ。

 本当は手を繋いで戻ってもらいたいのだが、無理だろう。

 第一、ナイトウルフは手を繋いで歩けない。


「パルマ。俺の手を握ってくれ」

「はい」


 結界の外に手だけ出し、繋いだ。


「ゆっくり慎重に、こっちに来てくれ」

「は、はい」


 恐る恐るといった様子で、半歩ずつ進む。

 手、足、ここまでは問題ない。


「ゆっくりゆっくり。無理だと思ったら、我慢するな」

「大丈夫です。あっ!? これがご主人様が仰っていた、柔らかい膜ですね」


 胴体がぶつかっても、問題ないようだ。

 ホッ、と安心したのと同時に、パルマが結界を抜けた。


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