30 ナイトウルフに懐かれた
イスペン村の裏口を抜け、外周をトコトコ歩く。
「ここですね」
一、二分で入口に着いた。
ラウルの話では獣道に毛が生えた程度らしいが、俺からすれば完全に獣道だ。
……都会っ子だと痛感する。
けど、ここで立ち止まるわけにはいかない。
目的の場所は、この先にあるのだ。
「よし。んじゃ、行くか」
「はい」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
セーバスに見送られ、俺とパルマは魔檻の森に足を踏み入れた。
どきどきする。
…………
最初こそ胸打つ鼓動の早さに手に汗握ったが、その心配はいらないかもしれない。
木々に程よく遮られた日差しと、吹き抜ける風が心地いい。
草木の折れる音もしないから、近くに魔獣もいない。
「いい感じだな」
「そうですね」
二つ返事で賛同してくれたが、パルマから受ける印象は真逆だった。
緊張から表情が強張り、額には汗が浮かんでいる。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だろ」
いまのところ、不穏な空気は微塵もない。
「ご主人様! 油断は大敵です!」
その通りだが、この平和が一瞬で消え去るとも思えない。
「バウッ!」
一鳴きしながら、ナイトウルフがひょこっと顔を覗かせた。
なんてこったい。
平和が一瞬で消えてしまった。
「バウバウッ!」
元気に吠えている。
…………
(んん!?)
目の前のナイトウルフから、特有の野性味を感じない……というか、まったくない。
険の無い面持ちは、飼い犬を思わせる。
きょろきょろ
周囲を見渡したが、飼い主の姿はなかった。
!!
ひらめいた。
もしかしたらこのナイトウルフは、俺が訪ねようとしている家の子なんじゃないだろうか。
俺は勝手に無人の場所を想定していたが、置き手紙を残した先祖の子孫がいる可能性だってある。
長い間この場に転住していれば、ナイトウルフを飼いならすことだって可能だろう。
(うん。そうに違いない)
「バ~ウッ! バ~ウッ!」
俺の考えを肯定するように、ナイトウルフが遠吠えした。
ガサガサガサ
周りの草木が揺れ、たくさんのナイトウルフが姿を現した。
「グルルルルルル」
中には凶暴そうなのもいる。
大きさも最初のと比べたら、二回りぐらいデカイ。
険がなかったのは、ただ単に子供だったからのようだ。
「パルマ! 逃げるぞ!」
「は、はい!」
手を取り駆け出したが、すぐに追いつかれる……はずなのだが、そのときは一向に来なかった。
いや、正確にはすでに来ている。
俺たちを取り囲むように、ナイトウルフが並走しているのだから。
いつ襲われても、不思議ではない……けど、襲われることはなかった。
????
試しに停まってみたら、ナイトウルフも停まった。
「グルルルルルル」
唸ってはいるが、敵意はなさそうだ。
「ハッハッハッ」
最初に出会った子ナイトウルフが、俺の脚に頬ずりしている。
撫でても噛まれなかった。
毛並みが柔らかく、実に手触りがいい。
わしゃわしゃわしゃ
「くぅ~くぅ~くぅ~」
気持ちよさそうに鳴いている。
その反応に誘われるように、大人ナイトウルフもすり寄ってきた。
おっかない。
けど、噛みつく気配はなかった。
わしゃわしゃわしゃ
こっちは毛がしっかりしている。
けど、悪くない。
むしろ、アリよりのアリだ。
「おっ!? おっ!? おおっ!?」
ドンドン数が増えていく。
そんなわけはないだろうが、森中のナイトウルフがいるんじゃなかろうか。
道も完全にふさがれてしまった。
困ったもんだ。
「ご、ご主人様!?」
パルマの困惑した声に目を向ければ、なぜか俺の手はその頭を撫でていた。
「わ、悪い」
「いえ、大丈夫です」
慌てて手を離したが、赤面するパルマは大丈夫ではなさそうだ。
俺の顔も熱い。
「バウッ?」
見られたのが、ナイトウルフだけでよかった。
「ゲフゲフ。パルマはこのまま進んでいいと思うか?」
「大丈夫だと思います。もしダメなら、わたしたちはすでに死んでいるでしょう」
わざとらしい問答でしかないが、異論はない。
「おお!?」
俺が歩みを再開すると、ナイトウルフが左右に退いて、道ができた。
ポーラド村でも見た光景ではあるが、ナイトウルフが行ったことに感動した。




