29 もう一つの手紙
「歓迎といえばまずは食事ですが、苦手なモノはございますか?」
「お気遣いには感謝申し上げますが、遠慮します。手前勝手ですが、陽のある内に行きたい場所がありますので」
「行きたいところですか?」
「はい。魔檻の森に、足を踏み入れたく思っています」
!!
ラウルとセーバスを除く全員が、驚きに表情を歪めた。
気持ちはわかる。
魔檻の森は魔族領であり、魔獣や魔族に襲われる危険が高い。
そしてなにより、襲われたとしても自業自得であり、だれも助けてはくれない場所だ。
「所属はイスペンに移されますか?」
「いえ、王都のままでお願いします」
どこのだれであろうと領土侵犯は許されないが、知らずに足を踏み入れてしまう可能性はある。
その場合、罪は本人が償うのだが、個人ではどうにもできない損害を与えることもある。
となれば、所属下にクレームが入るのは当然だ。
ラウルは、それを嫌がっているのだろう。
当然だ。
恩があろうとなかろうと、出会って数分の人間より、自分と村人のほうが大事である。
だから俺は、変更しない。
父ちゃん母ちゃんには迷惑をかけるかもしれないが、許してほしい。
「そうですか。では、護衛を用意いたしましょう」
何度もかぶりを振った。
大勢で踏み込めば相手を警戒させるだろうし、言い訳もしづらくなる。
一人二人なら、間違って足を踏み入れたと言い通すことも可能だろう。
「ご配慮感謝します」
手紙を懐に仕舞い、一礼してから席を立った。
「お待ちください。ご主人様は、本当に魔檻の森に行かれるのですか?」
パルマはすごく不安そうな顔をしている。
「わかる。わかるぞ。正直、俺も不安だからな」
「では、やめましょう」
「そうはいかない」
「なぜですか?」
「この手紙に書かれている錬金術師の神髄に触れるためには、魔艦の森に行かなくちゃダメなんだ」
俺は懐から、もう一枚の紙を取り出した。
俺のすべてをそこに置いてきた。
欲しけりゃ勝手に取りに行け。
紙にはそんな文言と一緒に、簡略的な地図が併記されている。
縮尺は不明だが、イスペンから目的地までは、そう離れていない。
「ここに行かれるのですか?」
俺はうなずいた。
「失礼ですが、私にも見せていただけませんか?」
「喜んで」
隠すモノでもないし、地元民のアドバイスが貰えるのはありがたい。
「なるほど。断言はできませんが、村から五分~一〇分程度の場所ではないでしょうか。獣道に毛が生えた程度ですが、人が通れる道もあったはずです。無理と無茶をしなければ、比較的安全に行き来できる場所だと思います」
朗報だ。
道中の危険が薄れるだけで、心が軽くなる。
「ありがとうございます。んじゃ、早速行ってみようと思います……けど、パルマはイスペンで待っててもいいぞ」
比較的安全とはいっても、危険がないわけじゃない。
ケガはもちろん、最悪命を落とす可能性だってある。
そんなところに無理をして行く必要はないし、それを咎めるつもりもない。
「ご一緒します」
パルマの声は固かった。
緊張もあるが、それ以上に強い意志を感じる。
覚悟を決めているなら、俺に異論はない。
「よし。んじゃ、一緒に行こう」
「はい!」
「話は決まったようですね。ではセーバス。クロムハイツ様を目的の入り口までご案内して差し上げろ」
「かしこまりました」
これまたラッキーだ。
過去は先祖が世話をしたのかもしれないが、今世は世話になりっぱなしである。
返せるものがないので、せめて感謝は厚く伝えよう。
「本当に、ありがとうございます!!」
「お気になさらないでください。それよりも、すぐに出かけますか?」
「はい。お願いします」
「では、ご案内いたします」
セーバスを先頭に、俺たちはラウルの家を後にした。




