28 ラウルと手紙
俺たちが応接室に通されてすぐ、若い男が入ってきた。
シワの無いスーツを華麗に着こなし、歩く姿勢もしゃんとしている。
仕事のできる人間を絵に描いたら、こんな感じだろう。
けど、顔には若干の幼さがある。
たぶん、二十歳前後だと思う。
「おまたせしました。私がイスペン村の現村長を務めさせていただいている、ラウル・イーエロと申します」
胸に手を当て一礼する仕草は、大人のそれだ。
……
ラウルを外見だけで若者と判断した自分が情けない。
自分を戒めるためにも、きちんと挨拶をしよう。
「今回は突然の訪問をお許しいただき、ありがとうございます。私はアンナ・クロムハイツと申します」
「アンナ様の従者のパルマ・トーチスです」
「はははっ、やはりそうですか」
ラウルが破顔した。
失礼かもしれないが、笑うとより幼く見える。
けど、いま重要なのは、そこじゃない。
「やはりそうですか、とはどういった意味でしょう?」
「そのままの意味です。詳細は明かせませんが、数日前に知人から、クロムハイツ家の者が近々訪ねてくるから、心の準備をしておけ、と助言をいただいておりました」
先ぶれを出した覚えはないし、イスペンに行くことを伝えた知り合いもいない。
唯一可能性があるとしたら……隣りにいるパルマだが、視線が合った瞬間にかぶりを振られた。
「思い至らないのも当然です。私が申し上げた知人とお二方に、面識はないはずです」
「よくわからない話ですが、村長さんはその方の意を汲んでくださったわけですか?」
「半分はその通りですが、もう半分は私の意思です」
「ということは、村長さんも俺が来るのを知っておられたわけですか?」
「知りません。ですが、その機会がいつ訪れてもいい、とは常に意識しておりました」
なんとなく、話が繋がった。
「では、これをお渡しします」
「ありがとうございます。中を確認させていただいてもよろしいですか?」
「お願いします」
俺が差し出した封筒を受け取り、ラウルが手紙を読み始めた。
「セーバス。例のモノを」
「かしこまりました」
俺を迎え入れてくれた老紳士が、あらかじめ用意していた手紙をラウルに渡した。
たぶん、セーバスというのが彼の名前で、執事のような立場なのだろう。
「うん。相違ないな」
二つを重ねたラウルが、深くうなずいている。
「わたくしもよろしいですか?」
「ああ。きちんと鑑定してくれ」
「かしこまりました」
セーバスの瞳の色が変わった。
鑑定魔法を使っているのだろう。
「どうかな?」
「疑いようのない本物です」
「やはりそうか。では、お二方も確認してください」
二枚の紙を渡された。
ドワルムントを離れることがあるなら、この文を持参したうえで、辺境にあるイスペン村を訪れることを奨める。
もしお主にその資格があるなら、錬金術師の神髄に触れられるだろう。
一枚目に書かれた文言がこれで、
クロムハイツを名乗る客人が訪れたら、可能なかぎり便宜を図れ。
それが多恩ある者の務めだ。
自分は関係ない、と思うかもしれないが、この村の歴史が続いているのは、クロムハイツがいたからに他ならない。
もし無下に扱えば、村は消滅する。
二枚目がこれだ。
最後の一文がおっかないが、まずは確認をしよう。
一枚目はおれが持参した物で、二枚目はラウルが保管していた物。
文言も違えば、筆跡も違う。
比べようがないぐらい別物だが、左下にある刻印は酷似していた。
(う~ん)
同じ……だと思う。
けど、これになんの意味があるのかもわからないし、自信もない。
「パルマはどう思う?」
「見てもよろしいのですか?」
「頼む」
判断を丸投げしただけだが、パルマは意気に感じてくれたようだ。
真剣な表情でつぶさに観察している。
「刻印は同じモノだと思います。けど、それ以外はなんとも言えません」
俺と同じ判断だ。
自分の考えが間違っていないのがわかっただけでも、充分な成果だ。
「ありがとうございます。確認させていただきました」
俺は二枚の手紙を、テーブルに置いた。
「いろいろ疑問はおありでしょうが、まずはこう言わせていただきます。ようこそイスペン村へ。我々はお二方を歓迎します」
ラウルの宣言に、セーバスを含めた家人が拍手した。
ブックマークをしてくださった方が、五人になりました。
ありがたいことです。
次の目標は十人です。




