27 イスペン村到着
不思議な声が聞こえなくなった後、旅の順調度が加速した気がする。
魔獣や獣の姿はもちろんのこと、鳴き声はおろか、うなり声すら耳にしなかった。
まるで、俺たちしか存在しないかのような静けさだ。
「ライラライラライ」
ヒンヒヒンヒヒン
襲われる心配がないからか、御者も馬もご機嫌だ。
軽やかな歩調もどんどん加速し、いまや疾んでいるような錯覚すら感じさせる。
そんなやる気と元気で満ち溢れていた状態が続き、第二の中継地まで二日程度かかる予定が、一日半に短縮された。
ありがたい。
中継地は、牧歌的で落ち着いたイイ村だった。
唯一の不満は、村に二件ある食堂に、しょうが焼きがなかったことぐらいだ。
「お客さん方。もうすぐ着きますよ」
馬車に揺られ何度目かの朝を迎えたころ、御者がそう告げた。
前方に村の入り口が見える。
無事、イスペンに到着したようだ。
「んんんん」
降りてすぐ、長距離移動で固まった体をほぐすように、伸びをした。
暖かい日差しも心地よく、非常に気持ちいい。
「大丈夫ですか? ご主人様」
「問題ない。まあ、ちょっとケツは痛いけどな」
「ふふっ。震動が続きましたもんね」
笑みを浮かべるパルマは、平気そうだ。
俺と出会う前に旅をしていただけあって、慣れているのだろう。
「いや~、あっけなかったな」
「ああ。イスペンまでがこんなに楽だったのは、記憶にないな」
冒険者たちも元気いっぱいだ。
ヒヒ~ン
馬もまだまだ走る気でいる。
「では、私はこれで」
「お父さん、早く早く」
「おいおい、慌てて転ぶなよ」
「お母さん。あたしたちの新しいお家どこ?」
「逃げないから大丈夫よ」
商人は到着と同時に取引にむかい、家族もはしゃいでいる。
疲れているのは、俺だけだ。
おかしい……わけじゃない。
王都でぬくぬく育った俺が、ひ弱なだけだ。
「ご主人様、これからどうされますか? 数日滞在するなら、早急に宿を確保いたしましょう」
「いや、その必要はない」
「もしかして、知り合いの方がいらっしゃるのですか?」
「いや、そんな人物はいない」
「では、すぐに出発するのですね」
パルマはイスペン村も中継地だと判断したようだが、それは間違いだ。
俺の目的地は、ここで合っている。
けど、滞在はしない。
自分で考えておいてなんだが、矛盾に満ちている。
もし他人がこんなことを言い始めたら、正気を疑うレベルだ。
だからこそ、行動で示したほうがいい。
「ついてきてくれ」
パルマの手を引き、俺は目的地である村長宅にむかった。
けど、すぐに気づいた。
肝心の村長宅を知らない。
「あのぅ、すみませんが、村長さんはどこにいらっしゃいますか?」
「この時間なら、自宅にいるんじゃないかしら」
「ご自宅は、どの辺にあるのでしょうか?」
「目の前に大きな家が見えるでしょ。あの裏よ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
通りすがりの親切なおばちゃんと別れ、俺たちはあらためて村長の家を目指す。
「えっ!? ここ?」
大きな家の裏手にあったのは、小さな一軒家だった。
きょろきょろ見渡しても、ほかに家はない。
なら、ここで間違いない。
「すみません。村長さんはご在宅でしょうか?」
「お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください」
声かけと同時に玄関戸が開き、老紳士に手招きされた。
話が早いのは非常に助かるが、勘違いだったときのややこしさはそれを上回る。
ちゃんと確かめよう。
「約束はしていないので、別人ではありませんか?」
「その可能性は十二分に承知しておりますが、来客はすべて応接室に通すよう、主より仰せつかっております」
なら、大丈夫だ。
俺の用はすぐ済むので、本来の待ち人とバッティングしても、長い時間待たせることはない。
「おじゃまします」
村長と面会をするため、家に入った。




