閑話 ムシアラの誓い
「あのぅ、なんでわたしが、書類仕事をしているのでしょうか?」
パルマが困惑するのは当然だが、必要なことなのだ。
彼女が創造したゴーレムは一般的なモノと変わらないらしいが、規格外の言うことを鵜呑みにしてはいけない。
いざというときのためにも、メンテナンスや運用方法など、知っていることは紙に記しておいてもらいたかった。
というのも、落ち着いて話をする時間がないのだ。
次から次に「あの武闘家はなんだ!?」と騒ぎ立てる村人がギルドに押し寄せ、おれとレアハムはてんやわんやだ。
この後に偽装書類も作らねばならないのだから、いかんともしがたい。
「みんなよく聞いてくれ! ゴーレムは味方だから、安心してくれ!」
「製作者に礼を言わせろ!」
「駄目だ! あれは大っぴらにできないモノだから、そっとしておいてくれ」
「そんなわけにいくか! 村を救ってくれた恩人に会わせろ!」
『そうだ! そうだ!』
暴動になりかねない熱量だ。
わかる。
絶望が一夜にして希望に変わったのだから、当然だ。
けど、これをアンナにぶつけてはいけない。
下手をしなくても、揉みくちゃにされてケガを負わせてしまう。
「みんな聞いてくれ。彼は明日の見えないおれたちに、光を見せてくれた恩人だ。その恩人を困らせるのは、本意じゃないだろ?」
「それはそうだが、礼の一言ぐらいいいだろ」
「全員が同じ気持ちだ。だから、別の形で感謝を示そう」
「具体的には?」
「宴会だ! どんちゃん騒ぎをして、彼を安心させてやろう! ちなみに、宴会の費用はおれが持つ!」
夜。
なんとか偽造書類を完成させたおれは、アンナたちと一緒にヤシモクの食堂にむかった。
「すげえな。いつもこうなのか?」
アンナが目を丸くするのも、よくわかる。
ポーラド村に赴任して十数年経つおれでも、これだけの人数を見たことがない。
「今日は特別だな。こんなことは、年に一度もない」
たぶん、全村人が参加している。
それもこれも、ゴーレムが夜間警備を担当してくれているからだ。
「ぐははははは」
「いいぞ~。もっとやれ~」
楽しそうな光景に、ほほが緩む。
「これじゃ無理か」
「安心しろ。悪い。みんな、開けてくれ」
号令一つで、道ができた。
感謝を行動で示せたことで、村人たちもニコニコだ。
おれも嬉しい。
けど、それがいけなかった。
深酒をしすぎて、後半の記憶がない。
「頭イテェ~」
二日酔いなんて、いつぶりだろうか。
「お前もか」
「ああ。昨日は呑みすぎた」
そこかしこで、フラフラな大人たちが同じ会話をしている。
喜ばしくも、駄目な姿だ。
「女将。昨日の支払いに来た」
「昨日もらったよ」
??
話を聞けば、アンナが済ませたそうだ。
また一つ、大きな貸しを作ってしまった。
「ムシアラ様。やはり、アンナ様たちはすでに旅立ってしまったようです」
レアハムの報告に、おれは崩れ落ちた。
別れのあいさつすら交わせなかったのは、痛恨の極みだ。
「死ねなくなったな」
アンナに礼を言うまでは、絶対に村を守る。
そして、困っていることがあるなら、地の果てまで駆けつけ、命を懸けて助力しよう。
それがおれにできる、唯一の恩返しだ。
長い閑話が終わり、次回よりアンナ視点の物語に戻ります。




