閑話 ムシアラの邂逅
自分でいうのもなんだが、現役時代のムシアラ・バイルは、そこそこ優秀な冒険者だった。
優秀といえないのは、後遺症が出るほどの大ケガを負ったからだ。
アレがなければ、まだ現役を続けていた。
後ろ髪引かれる思いは当然あるが、身を挺してお偉いさんを守ったのが評価され、ポーラド村のギルドマスターに就任できた。
パーティーメンバーのレアハム・ドルトも一緒に引退し、秘書として一緒に働いてくれるそうだ。
ありがたいうえに、心強い。
赴任して驚いた。
王都に近いからそれなりの村を予想していたが、ポーラド村はいたって普通の村だ。
「なるほど」
住んだら理由がわかった。
すべては王都が近いことが原因だ。
一旗揚げたい血気盛んな冒険者はもちろんのこと、王都で取引がある商人たちからすれば、ポーラド村で足を止める理由がない。
みな一目散に通り過ぎていく。
ただ、立ち寄る者がいないかといわれれば、そうでもなかった。
王都から外に出る者たちの来訪は、頻繁にある。
ポーラド村のほうが物価が安いので、旅支度をするのにいいらしい。
文句はない。
村が潤うなら、大歓迎だ。
「平和だな」
刺激がないと言われればその通りだが、死と隣り合わせの冒険者時代と比べたらずっといい。
朝起きて夜に寝る。
そんな当たり前に身を置ける現状を、一生懸命維持しよう。
ギルドマスター就任から、五年の歳月が経過した。
最初こそ王都から派遣される警備隊とぶつかることも多かったが、レアハムが間に入ってくれたおかげで、円滑に進むようになった。
今では肩を組んで飲みに行く間柄にもなれた。
レアハムには感謝しかない。
苦手な王都への定期報告を克服したら、交際を申し込もうと思う。
「レアハム・ドルトさん。おれと結婚を前提に付き合ってください」
「ええ。喜んでお受けします」
この世の春が訪れた。
ギルドマスターとしての仕事も安定しているし、不安なことなどなにもなかった。
人生が色づくと、フットワークも軽くなるようだ。
常夏のように元気に動き回り、村の人間とも家族のような信頼関係を結べている。
こんな日が、ずっと続くと思っていた。
マズイ。
森の魔獣が、活動を活発化させている。
冬眠の準備に入ったのかもしれない。
「村長! 王都に警備隊の増援要求をしてくれ! 今すぐだ!」
「わかった。これを王都に届けてくれ」
「了解しました」
最悪を想定し、手紙を用意してくれていたようだ。
託された警備隊長の動きも早い。
これなら間に合う。
「退け! 道を空けろ!」
間に合わなかった。
王都からの増援が来る前に、村に犠牲者が出た。
襲われたのは、村で林業を営む男だ。
村のすぐそばの伐採場で、魔獣に襲われた。
「村長! 増援はまだなのか?」
「軍隊の派遣には相応の準備期間が必要らしい」
もっともな話だが、納得することはできなかった。
王都からポーラド村までに敵地はないのだから、数週間もかかるはずがない。
食料などの輸送だって簡単だ。
…………
考えたくはないが、ポーラドの村は見捨てられた可能性がある。
わからないでもない。
重要な産業のない寒村が滅んだとしても、国としては痛くもかゆくもない。
なんなら、もう少し離れたところに交易の拠点を作ってもいい、と思っているかもしれない。
けど、それは国の考えだ。
ポーラド村を大事に思う、おれの考えとは相いれない!
「おれは王都のギルドで冒険者を募ってくるから、少しの間ギルドを任せる」
「留守をお預かりします」
レアハムにギルドマスターの権限を託し、おれは王都にむかった。
「やっと着いた」
短い道中にもかかわらず、三度魔獣に襲われた。
数頭のナイトウルフは脅威ではなかったが、昼に遭遇したことが大きい。
もし夜に集団で襲われていたら、王都にたどり着けなかっただろう。
そしてなにより、夜行性のナイトウルフが昼に活動しているのが問題だ。
魔獣の活発化は、着実に進行している。
それを嫌でも実感した。
「よう。ムシアラじゃねえか。どうしたんだ? 定期連絡会にはまだ早ぇぞ」
「のんきなことを言ってる場合か。魔獣が活発化してて、ポーラド村が危ないんだ」
「はあ!? そんな話聞いてねえぞ」
「軍に救助要請を出しているが、準備に時間がかかるそうだ。その間を賄うために、冒険者に討伐依頼を出しに来た」
「軍に救助要請? そんな話聞いてねえぞ」
王都と冒険者ギルドは、持ちつ持たれつの関係だ。
そこに話がきていないなんてことは、ありえない。
けど、昔から知る目の前のギルドマスターが、ウソをついているようにも思えなかった。
「まさか!?」
最悪のシナリオが脳裏に浮かんだ。
「どうした?」
「ポーラド村の村長から救助依頼が出ているか、すぐに確認してくれ!」
「お、おう」
…………
数分が何百年にも感じる。
「頼む! 頼む!」
「ムシアラ! 残念だが、救助要請は出ていないそうだ」
やはりだ。
ポーラド村は国に捨てられたんじゃない。
村長に捨てられたのだ。
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