3 奴隷が欲しい
唐突だが、自己紹介をしようと思う。
俺の名前は、アンナ・クロムハイツ。
職業、錬金術師。
実力も実績も申し分ないが、世間的には無名である。
おかしな話に聞こえるかもしれないが、それにはちゃんと理由がある。
俺の主な取引先はドワルムント王国であり、商会や個人との取引は皆無に等しいからだ。
その理由は、品質がいいから。
回復薬や農業肥料はその辺の錬金術師と比べても一・五倍は効果があるし、本気になればその倍も作れる。
ただ、難点もあった。
クロムハイツ家の直系でないと、生産ができないのだ。
過去に先代が弟子を取り教鞭を振るったこともあるそうだが、上手くいかなかったらしい。
それからも才能のある子をマンツーマンで手取り足取り育てたこともあったが、やはりダメだったそうだ。
原因となる詳しい理由はわからないが、長いこと試した結果、わかったのは血筋が大事、ということだけだった。
だからこそ、クロムハイツ家産の物は貴重であり、在庫管理を国が一任することとなったのだ。
ただ、それが多分に影響し、他人からは働いてないニートと思われている気がする。
「あるぞ~。仕事も稼ぎも、結構たくさんあるからな~。毎年嫌になるくらいの税金も納めてるぞ~」
だれにむけたわけでもないが、一応宣言だけはしておいた。
とはいえ、世間様からすれば、外観の怪しい家に住む若い兄ちゃんにほかならない。
そしてここを離れられない理由が、魔よけである。
やはり詳しい理由はわからないが、先祖代々クロムハイツ家には魔物を遠ざける力があるらしい。
ある、と断言できないのは、俺が生まれたころには、魔族との戦争が終結していたからだ。
襲ってこないモノを遠ざけるもなにもないし、証明もできない。
…………
冷静な人なら気づいているかもしれないが、ここまでの話には大いなる矛盾がある。
錬金術師として優秀で、ほぼ国との取引しかしていないなら、城に住めばいい。
俺がいることで魔よけにもなるのだから、重鎮たちも喜ぶはずだ。
家事の苦手な俺にとっても、悪い話じゃない。
衣食住の世話をしてもらいながら、のんべんだらりと錬金術の仕事と研究をする。
最高だ。
けど、それはできない相談でもあった。
なぜなら、国は一枚岩ではないから。
謀反とはいかないまでも、現政権を貶めたい輩は腐るほどいる。
そいつらからすれば、国王は自分とその家族と側近を守るために俺を囲い込み、国民を危険にさらしている、といった風評を流すいい材料なのだ。
それもあってかどうかは知らないが、クロムハイツ家は代々王都の外れに住んでいる。
「まあ、父ちゃん母ちゃんは都心住まいだけどね」
というか、二人は半分ぐらい王城にいる。
あれ? さっきの話と矛盾しない?
と思われる方もいるだろうが、ご安心あれ。
俺の両親は、宮廷錬金術師なのだ。
勤務地が王城なのだから、その近くにいてもなんら不思議はない。
「まあ、それもここ数年の話だけどね」
俺が一人立ちするまでは、両親のどちらかが、必ず同居していた。
父ちゃんはまだマシだったが、母ちゃんはヒドかった。
「あんた、課題はちゃんと終わらせたんだろうね!?」
「好き嫌いすんじゃないよ!」
「起きたらおはよう。出かけるときはいってきます。帰ってきたらただいま。挨拶くらいきちんとしな!」
思い出される小言の数々。
そんな口うるさい母ちゃんから、やっと解放されたのだ。
…………
その結果がゴミ屋敷だとしたら、もろ手を上げて喜んではいけない気がする。
けど、いまさら束縛もされたくない。
自堕落ながらも、満ち足りたこの悠々自適を満喫したいのだ。
「そのためにはアレだな。奴隷を買うか」




