閑話 パルマの提案後編
「ええっと、あれはどこかなぁ。おかしいな。入れたはずだけど……あるといいなぁ~。んん!? ナイス! 超ファインプレーだ!」
ゴソゴソとマジックリュックを漁っていたご主人様の顔が、パアァッと輝いた。
取り出したのは、それぐらい凄い壺なのだろう。
「よし。戻るぞ」
「えっ!? 防壁の一部を作成しなくてよろしいのですか?」
「その必要はなくなった。これがあるなら、全部解決だ」
凄いのは壺ではなく、中身の塗料だった。
どれぐらい凄いかといえば、「スパークベアぐらいならイケる」そうだ。
ご主人様を疑うわけではないが、信じがたい気持ちが勝っている。
というのも、わたしはスパークベアと遭遇したことがあるからだ。
その一撃は凄まじく、護衛に雇った中級冒険者をいとも簡単に、死に追い込んでいた。
正直、思い出しただけで身震いがする。
アレを塗料を塗っただけの木柵で防ぐことなど、できるはずがない。
けど、できるのだろう。
事実、ムシアラ様の放った強烈な一撃に耐えた。
恐ろしい結果だ。
薄めて使用すると効果が落ちるらしいが…………
これを落ちたというのだろうか?
テーブルの脚を斬った三獄斬りは、本人いわく上級冒険者の三連撃と同程度らしいが、実際は上だと思う。
正直、神業と表していいレベルだ。
性能を落としてそれに耐えるのだから、スパークベアぐらいならイケる、のもうなずける。
そんな驚異の代物を、実質タダで譲渡するそうだ。
唯一の要求は、ナイトウルフを買い取ったと偽装すること。
わたしやムシアラ様たちからすればありえない取り引きだが、ご主人様からすれば等価交換らしい。
むしろ、偽装を強いるご主人様(自分)のほうが利を得ている、ように感じている。
天才の感覚に、身震いが止まらない。
交渉を終え宿に戻る途中、わたしたちは村の少女と出会った。
急に始まった淑女紳士ごっこには面食らったが、お弁当を届ける少女に同行するそうだ。
「あっ、いた! 父ちゃん。忘れもん届けに来たよ」
「おう。あんがとな」
走り寄ってきた少女を抱きしめる父親を見て、ご主人様は笑っている。
優しい笑みに、わたしの胸も温かくなる。
「グルルルルル」
幸せな光景に冷や水を浴びせるように、一頭のナイトウルフが飛び込んできた。
「ビルド!」
ゴーレムの創造が間に合い事なきをえたが、心臓に悪い。
ご主人様も青い顔をされている。
「悪いけど、パルマはここに残って、後三体ゴーレムを作ってくれ」
そう言い残し、走り去った。
たぶん、ゴーレムを強化するあの玉を取りに行ったのだろう。
正解だった。
「おい、おい、おい!? あんなの作っていいのか?」
「未来永劫動くわけじゃねえし、一時の保険と考えれば問題ないだろ」
村にそぐわない強烈な護衛の誕生に困惑するムシアラ様をよそに、ご主人様はいたって平然としている。
「ありがとう。おじさん」
少女の満面の笑みにご満悦だ。
ごちそうしてもらったしょうが焼きも、気に入ったらしい。
「紳士、また来てね」
「淑女の頼みなら断れないな。はっはっは」
宿に戻って秘密を打ち明けようと思ったが、駆けつけたムシアラ様とレアハム様に捕まってしまった。
ゴーレムのレクチャーを受けたいそうだ。
正直教えるようなことはないが、魔力の補充と補修の仕方を説明した。
そしてなぜか、ギルドの書類仕事を手伝うはめに……
ポーラド村で過ごす最後の夜、ご主人様は淑女との約束を果たすため、ヤシモクの店を再訪した。
その道中みんなが浮かれ騒いでいることに驚いているが、それもこれもご主人様のおかげだ。
夜の警備をゴーレムが担当しているから、数か月ぶりに羽を伸ばせている。
「淑女。とりあえず、しょうが焼きを単品でください」
「かしこまりました。紳士」
再会に目を細めるご主人様は、嬉しそうだ。
周りの楽しそうな雰囲気にも喜んでいる。
「ちょっとトイレに行ってくる」
食後に席を立ったご主人様は、会計にむかった。
「お代はいりませんよ」
「ムシアラからです。足りない分は、後日請求してくれ、と」
それは間違いなくご主人様のお金だが、気を遣わせないためにそう言ったのだろう。
「ありがとうございます」
「ごちそうさまでした。淑女にもよろしくお伝えください」
眠ってしまった少女への気遣いも忘れない、本当に優しい方だ。
チクッと胸が痛んだ。
「ご主人様。お帰りになられるのですか?」
「眠いからな。パルマはいてもいいぞ」
「いえ、わたしも帰ります」
「そっか。んじゃ、帰ろう」
肩を並べて、わたしたちは宿に戻った。
秘密を打ち明けられない自分を、情けなく思いながら。




